いま勢いのある日本の新進デザイナーブランドの一つに「テルマ」がある。デザインするのは、「ドリス・ヴァン・ノッテン」や「イッセイミヤケ」で経験を積んだ中島輝道さん。鮮やかなプリント、景色や空気を感じさせるストーリーなど、様々な要素が重なるモダンな服は22年春夏のデビュー当初から、服好きの玄人を引き付けてきた。デザインの柱は、日本の伝統的なテキスタイル。10年以上、パリ・コレクションに携わってきたデザイナーは、世界と肩を並べるために、あえてそのルーツ、日本を追求した。
本流ではない
ドリス・ヴァン・ノッテンでキャリアをスタートした中島さんは10年の入社後、デザイナーのアシスタントとして西洋の服作りをじかに学んだ。次第に経験値は上がるものの、どこまで行っても〝洋〟の服。感覚的にはこなせなく、「自分は本流ではない」という劣等感をぬぐえなかった。デザイナーとして成熟するためには、「表面的ではない確かなものをつかまなければ」。それが、日本の風土ならではの技術を掘り下げるきっかけとなった。
14年の帰国後、イッセイミヤケに入社し、西洋とは違う服の概念を学んだ。素材の場合、西洋では出来上がった時が100%。一方、日本には経年変化を楽しむ感覚がある。そこに「味わい深さがある」。テルマの〝軸〟が定まった。
情緒ある色
これまでに使った素材は、有松絞りや裂き織り、英国紡績機のニットなど。忘れ去られようとしている技術を掘り起こすことが多く、24年春夏は柿渋染めの美濃和紙に挑んだ。
柿渋染めは、番傘に使われていた染料で、水をはじくほか、血圧を下げる効能があるとも言われる。そのままだと硬いので、しっかりともんで角のない質感に。秋の里山を思わせる茶色には日本らしい情緒を感じる。
仕立てたのは、テーラードジャケットやマウンテンパーカ。強さと穏やかさを併せ持つ日常着となった。いずれも20万円前後と高額だが、百貨店の外商や海外のバイヤーに特に好評で、個人向けの受注会では服好きがこぞって発注した。
「石造りの西洋の街」に憧れた時もあるが、今は「原風景にある日本の田舎」が落ち着く。自然を征服するのではなく、共存する感覚が心地良い。服があふれる時代、必要とされるブランドであるために「オリジナルを貫きたい」。