障害者就労支援のたなごころ 裁縫を生かした事業が活発化

2025/12/24 12:00 更新NEW!


たなごころでの裁縫作業

 就労継続支援A型事業所を運営するたなごころ(名古屋市)は、裁縫を軸とした事業で認知を広げている。服を修繕するリペア事業や、端切れを使ったリメイクなどのほか、思い出の生地を使ってテディベアを作る「リベア」など、地元企業と連携しながら推進。活発な事業推進の背景には、たなごころ創業者の浅井秀紀さんが、24年夏に立ち上げた中小企業による障害者の共同雇用に取り組む組合「アプリシエイツ」の存在がある。

(森田桃子)

就労機会を協力し創出

 たなごころでは約40人の就労者が働き、うち7割がデジタルなどテクノロジー関係に従事。残りの3割は、細かな手作業を得意とする就労者で、技術を生かし7年ほど前から裁縫事業も推進してきた。

 実績では、大手手芸用品専門店チェーンからECサイト運営業務を皮切りに、手芸用品店での作品見本作成の仕事も受注。仕事の質が評価され、その後約10人の直接雇用につながった。また、名古屋市内の商店街で話題となった、正座を苦しくないようサポートする椅子の技術を発明者から継承し、月約400個を生産、大手ECモールで販売もしている。

 事業を通じ障害者の技術力を確信してきた浅井さんだが、たなごころ立ち上げから10年が経ち、障害者雇用を進めるには「1社では限界がある」と感じるようになった。さらに技術を知ってもらい、雇用機会を増やすために、中小企業による共同雇用を推進する事業組合アプリシエイツの立ち上げに踏み切った。

たなごころ創業者で、アプリシエイツを立ち上げた浅井秀紀さん

 仕組みは、中小企業が参画することで、組合全体で障害者雇用の法定雇用率を満たそうというもの。雇用までにハードルのある企業でも、組合へ仕事を発注することで障害者の就労機会の創出になり、雇用につながることから、その業務が各企業の実雇用としてカウントされる。

 障害者の就労機会の創出のほか、「成果物の質を実感してもらい、ゆくゆくは直接雇用につながるきっかけになれば」と考えた。全国で3例目、愛知県で2例目となる厚生労働省の「事業協同組合等算定特例制度」の認定を受けた。たなごころも同組合に参画し、組合経由で仕事を受注している。

技術力を伝えたい

 組合の始動から1年。組合への中小企業の参画はまだ多くないものの、取り組みに共感が寄せられている。参画企業であるたなごころにも、大企業を中心に新たな協業や依頼が舞い込む。

 地元病院からの依頼で、スクラブの修繕業務を月40~60着ほど担うほか、今年12月にはブラザー販売から刺繍機能の付いた家庭用ミシン5台が寄贈。新たに「ミシンのちからプロジェクト」を立ち上げ、リメイク、リペアなどの事業に本腰を入れ始めた。思い出の服をテディベアに作り替えるリベアも発案。紳士服の仕立て業者からの依頼で、仕立て布の端切れをテディベアに変える仕事も受けている。

ブラザー販売から寄贈されたミシンなど7台が稼働。左にあるのは製作途中の「リベア」

 浅井さんは以前、引きこもりの支援学校で教えていた経験がある。そこで、技術があっても社会の理解がないために、社会進出を阻まれる人の姿を目の当たりにしてきた。

 理解が広まってきた現在でも、中小企業では売り上げや利益が重視され、障害者雇用の優先度は低くなりがち。だからこそ福祉的な観点からではなく、「成果物を通じて仕事の品質や技術を実感してもらうことから、雇用につなげたい」と強調。将来的には「組合のような仕組みがなくても障害者雇用が当たり前に行われる社会を目指したい」と話す。



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