ブルックリンで開催中のハイヒールを検証した展覧会(杉本佳子)

2014/09/28 00:00 更新


 尖がったハイヒールの靴―――ある人はセクシーとかエロティシズムといったイメージをもつだろうし、威厳や威圧的なパワーを感じる人もいるだろう。

 「よくあんな高いヒールの靴で歩けるな~」と痛さや不便さに目を向ける人もいるだろうし、インパクトのあるデザインならその造形やディテールに魅せられる人も多いに違いない。はたまたSMチックな妄想をする人もいるかも?そんなハイヒールの靴のもつさまざまな面を捉えた展覧会が、ブルックリン美術館で開催されている。

 タイトルは、「キラー・ヒールズ: ハイヒールシューズのアート」。


 
キラー・ヒールズ展の入り口。あえて照明を落とし、メタリックなピンヒールを打ち出している

 

 展示されているのは、160点以上に及ぶ17世紀以降のさまざまな履物だ。日本の下駄や中国の纏足用の靴など東洋の影響を受けた靴、フェティッシュに焦点を当てたグループ、建築や家具などにインスパイアされた靴、フューチャリスティックなデザインなど、6つのテーマに沿って靴やインスピレーション源、関連映像が紹介されている。

 入り口で来場者をまず迎えるのは、「Spike」というタイトルの動画だ。スパイクとハイヒールが共通してもつ攻撃性と華やかなイメージを重ね合わせている。



入り口で上映されている動画「Spike」。カラフルなパンク調のシーンが続く


 動画は他にも、四苦八苦しながらやっとの思いで歩くモデルに焦点を当てたもの、ハイヒールで踏みつけられたらこういうシーンが目に入るだろうという視点で撮影されたもの、SM風にハイヒールで踏みつけたりピンヒールで車に無数の引っ掻き傷をつけているシーンが出てくるものなど、この展覧会ならではの動画が揃う。


 
バレリーナのトゥシューズ同様の爪先立ちでないと歩けない靴を苦しそうに履いて歩くモデルを写した動画


 日本人デザイナーの靴もいくつか含まれている。

 串野真也さんは、カラスの羽根をつけた「Stairway to Heaven」、フォックステールをつけた「Chimera」、アーティストのスプツ二子!とコラボした「菜の花ヒール」の3点が採用された。

 菜の花ヒールは福島の原発事故で汚染された土壌をきれいにするために考えた靴で、かかとの中に菜の花の種を入れ、歩くと地面に穴を開けて、種を植え付けられる構造になっている。福島と菜の花に関連した動画も合わせて紹介されている。



串野真也さんの「Stairway to Heaven」。コンセプトは「シンプルにこの靴をはいて、天国に向かう」


つ増えてきているのですが、その中でもこのキラー・ヒールズ展の規模は非常に大きく、注目されていると認識しています。キラー・ヒールズ展に作品が展示されることはとても光栄で、海外に発信していく上で重要と考えています」と語った。

 日本のインスピレーション源としては、ぽっくりや下駄、それらの履物が登場する絵画に加え、「さくらん」と「Memoirs of a Geisha」の2つの映画が取り上げられている。高さのある靴は、高いステータスや美の象徴と位置づけられている。



絵画は月岡芳年の「月百姿 廓の月」(1886年)


 ぽっくりや高下駄の影響を受けた例として展示されているのは、館鼻則孝さんの「Atom」(2012~2013年)や、オランダのデザイナー、Winde Rienstraの「Bamboo Heel」(2012年)だ。



館鼻則孝さんの「Atom」
Noritaka Tatehana. “Atom,” 2012–13. Faux leather. Courtesy of Noritaka Tatehana. Photo: Jay Zukerkorn


Winde Rienstraの「Bamboo Heel」
Winde Rienstra. “Bamboo Heel,” 2012. Bamboo, glue, plastic cable ties. Courtesy of Winde Rienstra. Photo: Jay Zukerkorn


 ハイヒールのもつ危険な魔力や誘惑をクローズアップしたフェティッシュのグループには、フランスをベースとするAoi Kotsuhiroiさんの漆塗りの靴が含まれている。



▼Aoi Kotsuhiroiさんの靴


 特にスチレットはファンタジーのアイコンであり、グラマラスなハイヒールの象徴的フォルムと定義されている。クリスチャンルブタンの「Printz」(2013年~2014年)がこの展覧会のポスターに使われたのも、そうした所以かもしれない。



クリスチャンルブタンの「Printz」
Christian Louboutin. “Printz,” Spring/Summer 2013–14. Courtesy of Christian Louboutin. Photo: Jay Zukerkorn


 イメージソースとして靴と合わせて展示されたものには、1845年のアーティークのテーブルを初めとして、クラシックなキャンドルスタンドやデコラティブな持ち手のついたコーヒーカップ、豆電球、透明なシャンパングラス、モダンなデザインの椅子などがある。

 珍しいところでは、マリリン・モンローが1959年に愛用していたフェラガモの靴、エルザ・スキャパレリがサルバトーレ・ダリとコラボしたハイヒールのような形をしたウールの帽子「heel hat」(1937~1938年)もある。ブランドでは、ユニークなヒールの靴を毎シーズン作り続けているユナイテッドヌードが比較的目立つ。3Dプリントでつくられた靴もある。

 会期は来年2月15日まで。



透明なシャンパングラスにインスピレーションを得たというメゾンマルタンマルジェラの靴 


椅子などの家具に着想した靴も多い



89年秋以来、繊研新聞ニューヨーク通信員としてファッション、ファッションビジネス、小売ビジネスについて執筆してきました。2013 年春に始めたダイエットで20代の頃の体重に落とし、美容食の研究も開始。でも知的好奇心が邪魔をして(!?)つい夜更かししてしまい、美肌効果のほどはビミョウ。そんな私の食指が動いたネタを、ランダムに紹介していきます。また、美容食の研究も始めました(ブログはこちらからどうぞ



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