【連載】スパンデックス 世界の攻防(下)

2017/12/11 04:28 更新


 スパンデックスの市場拡大は、新興国での需要増など地理的な広がりだけが理由ではない。この糸が使われる用途も大きく拡大してきた。

高機能の原糸が揃う

 例えばジーンズ。かつてはメンズを中心に綿100%デニムが定番だった。しかし、レディス市場に続いてこの約10年で、メンズもスパンデックス混のストレッチジーンズが定着した。このほか、ビジネスやカジュアルなど着用シーンを問わず、ジャケット、シャツなどあらゆるアイテムでストレッチが増えている。スポーツのコンプレッションウェア、インナーでは補整下着のように、ストレッチ機能を生かして定着したアイテムも多数生まれている。

 これらを支えたのは、スパンデックスメーカーによるユーザーと共同した原糸開発だ。量の拡大は韓国、中国などアジアメーカーが主力だが、高機能原糸によるアイテム拡大は「ライクラ」や「ロイカ」といった有力ブランドがリードしてきた。

 インビスタは自社テキスタイル・リサーチセンターを活用、キックバックの良い補整力を生かした補整下着用「ライクラビューティーファブリック」、この補整力をデニムに応用した商品、ストレッチ性と織物のような見た目を両立したニットデニム用「ライクラハイブリッドテクノロジープラットフォーム生地」などを開発している。

 旭化成も熱セット性に優れ、モールドブラのカップやフリーカットの丸編みなどに向く「ロイカSF」、消臭機能「ロイカCF」、酸性染料可染「ロイカDS」などの高機能原糸の開発に力を入れてきた。最近、世界初のスパンデックスのリサイクル糸を開発。マテリアルリサイクルによるポリマーを50%使った原糸でGRS認証も受け、スポーツやインナー中心に海外アパレルからの引き合いも強い。

需要増に応えて増設

 もう一つ、スパンデックスの重要市場として近年、広がっているのが紙おむつだ。これらは日系衛材メーカーの好調もあり、日本のスパンデックスメーカーがけん引する。東レとインビスタが折半出資し、日本でライクラ事業を行う東レ・オペロンテックスは独自の開発、営業でインビスタ本社に先駆けて紙おむつ分野を開拓してきた。

 紙おむつの伸縮部であるギャザーにはもともとゴム糸が使われていた。これをスパンデックスが取って代わるには相当の開発努力を必要としたという。使い捨ての紙おむつには汎用スパンデックスが使われるように思われるが、紙おむつの高速生産にうまく追随しなければならず、品質要求の難度は高い。同社はこの約3年で紙おむつ向けが拡大し、アジアの需要増も取り込んで好調。旭化成がタイ、中国、ドイツでこの間増設したのもほぼ全量が紙おむつ用途だ。

 東レ・オペロンテックスは親会社の一方が、山東如意に異動する事になるが、東レとしては「これまで通り供給を続け、事業を維持する」構え。現在も日本独自にメディカル関連用途の開拓に力を入れており、着圧を生かしてふくらはぎのリンパの流れを促す靴下を開発し、自社ブランド「メドラボ」として販売を始めている。

 ライクラ売却を契機に、世界でスパンデックスの攻防はさらに強まると見られる。しかし、品質や素材開発、マーケティングなどの土台の力がなければ価格競争からは抜け出せない。

着圧を生かして新規用途へ広げる(東レ・オペロンテックス


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