【販売最前線】そごう・西武のワークスタイルプロジェクト
次の段階へ 協業型の販売マネジメント
そごう・西武は13年秋からスタートした顧客起点の仕事改革「ワークスタイルプロジェクト」(WSP)が第2フェーズを迎えた。第1フェーズは販売マネジャー(係長)を中心とした取り組みだったが、全店での店頭優先の組織風土改革に広げている。これまでの管理型の「消化マネジメント」から取引先を含めた販売員と一緒に考え、行動する協業型の「販売マネジメント」へ仕事の仕方を転換する。(松浦治)
WSPの好事例となるのは西武船橋店だ。14年上期に実施した各店の代表係長を集めたワークショップに参加し、店頭で「見て、気づく」活動を全館で実践。15年上期から販売マネジャー制を導入し、マネジメント層が常に売り場にいる体制に切り替えた。
これまでは一人ひとりの係長が計数管理や事務処理など管理業務と店頭のマネジメントを兼務していたが、重複する管理業務を1人の係長に集約した。残りの販売マネジャーが店頭での販売マネジメントに集中できるようにした。
接客や売り場運営が変わったことで「販売マネジャーが自らやって見せることもできるようになった。品揃えや売り場レイアウトを変えることで売り上げ増に結び付けることが大事」(青木夢夢西武船橋店販売部長)と、店頭改革に終わりがない。
実践例◆婦人雑貨スカーフ売り場
店頭で顧客を見ていると「スカーフをハンドバッグに当てたり、手首に巻くお客が多いことに気付きました」(清宮卓婦人雑貨販売マネジャー)というのが改革のきっかけだった。大~小判の様々な大きさの商品を手に持って広げるしぐさを繰り返す顧客の動作に着目した。
改善策の第一は商品陳列だった。スカーフは首に巻くことを想定していたため、これまで素材別に色柄で分類していた。しかし、顧客の用途が首に巻く以外の用途に広がっていることが分かり、ロングからプチまでのサイズを切り口にした陳列法に見直した。
次いで行動したのは売り場正面のVMDを変更したことだ。手首を模したマネキンや持ち込んだバッグにスカーフを巻き、用途の広がりに対応した。情報は取引先にもフィードバックし、イラストを交えたVMDを導入した。
今秋物のシルクスカーフの展開フェイスは前年同期比の2倍に広げた。投入した8月末から現在までの売り上げは前年同期比1・5倍になった。
実践例◆婦人服キャリア売り場
顧客の7割を働く女性が占めることから、キャリア向けフェアを全館で毎月開いている。その重点アイテムはジャケットで、当初はウォッシャブルの機能性に着目していた。しかし試着をする顧客を見ていると、「機能性よりも素材、仕様による軽さ、着心地を重視していることが分かった」(稲毛悠ヤングキャラクター係販売マネジャー)という。改めて消化仕入れショップを含めた担当売り場を検証すると、ジャケットの強いブランドである「セオリー」「ICB」はフェア全体の平均値を上回る売り上げだった。
今春夏のフェアは麻ジャケットに着目し、ゾーン全体に重点アイテムとして広げた。軽さ、着心地を訴求ポイントとして目的買いやクールビズスタイルに連動した。
婦人服キャリアの今春夏売り上げは前年同期比10%減だったが、ジャケットに関しては5%減にとどめた。各ショップチーフとの情報共有がジャケットの品揃えの改善につなげた。
そごう・西武がWSPに着手したのは、百貨店が顧客の買い方の変化に対応できていないことへの危機感からだ。ネットで下調べし、商品イメージを持って、わざわざ来店しており、「お客さまが本当に欲しているのが分かるのは、店頭からだけ」(田口邦子執行役員)だ。顧客の目線や、どのような商品を手に取っているのかなどを通して、顧客の心理や行動を見て、気付くことが全ての出発点となる。
店頭でのマーケティング、ソリューション、オペレーションの要となるのが販売マネジャーだ。その顧客の変化を品揃え、販促などで伝え、要望を引き出す接客に具現化することが求められる。
もっとも、「当たり前だが、やりきることは難しい」(同)のが現実だ。仕事の仕方をこれまでの管理型から店頭での販売が第一の仕事の仕方に変えなければならない。
この間の業務改善で、販売マネジャーが勤務時間のうち売り場に出ている時間が改革前の30~40%から75%に高まった。販売に携わる時間が増えたことで、自らが接客し、見て気付いたことを自社スタッフや取引先販売員と共有化し、結果に結び付いた事例が生まれている。百貨店の全ての業務は接客・販売から始まる。