センサーなどICT(情報通信技術)を活用した衣服型デバイス〝スマートウェア〟のビジネスが拡大しつつある。近年、ウェアラブル製品を使ったIoT(モノのインターネット)関連技術の開発が進み、体調管理など具体的なニーズを基に実証実験を重ね、製品およびサービスの完成度が上がった。素材メーカーなど関連企業はさらに実用レベルの高い新製品を開発、受注に結びついてきたため、量産体制を整える動きも目立つ。
(小堀真嗣)
◆30億円を調達
米国のコンサルタント会社、アライド・マーケット・リサーチによると、「世界のウェアラブル製品市場は15年で196億ドル。年率平均16.2%増で拡大し、22年には577億ドルに達する見通し」という。ウェアラブル製品の一種であるスマートウェアについては、別のコンサルタント会社、ガ―トナーが「20年度に49億7000万ドル(13年度は100万ドル)」と予測している。
日本国内でも、ウェアラブル製品の需要が顕在化してきた。ウェアラブル製品メーカーとして存在感が高まるミツフジ(京都府精華町)は、国内での開発・量産体制の構築を決めた。
優れた導電性を備える独自の銀メッキ繊維「AGposs」(エージーポス)の生産能力を増強するため、18年4月に京都府南丹市で自社工場が完工する。同年7月には、福島県川俣町にウェアラブル製品の一貫生産工場が完成する。このほど調達した総額30億円の資金を充てる考えで、受注に見合う生産能力の増強を急ぐ。
新製品開発の手も緩めない。エージーポスは、より導電性能を高めた「エージーポス2.0」を開発中で、18年1月に発表を予定している。今年12月には独自のクラウドソリューション「hamon(ハモン)1.0」を完成させる。「繊維からスマートウェア、クラウドまでトータルで製品・サービスを提供できる企業は世界で唯一」という。開発・生産を一貫で行い、ユーザーの要望を素早く具現化できる強みを発揮していく。同月には、ニューヨーク、パリに営業拠点を新設、海外での供給体制も拡充する。
◆ベトナムで生産
スマートウェアを開発するゼノマ(東京)も量産体制を整えて、本格的に販売を始める。ベトナム・ホーチミンに工場を構える日系縫製業者の協力を得て、ベトナム工場の生産ラインの一部を借り、年内に月産200着まで増やす。単価は従来品の10分の1程度に抑える。
同社は15年11月、導電性を備えたインクを使ったプリントで電気回路を配した高伸縮生地「イースキン」の事業化を目的に起業した新興企業。同社のスマートウェアは、14個のゆがみセンサーを搭載したイースキンを使い、着用者の細かい動きまで電気信号として検知できる。
さらに、グーグルのAI(人工知能)プラットフォーム「テンソルフロー」を活用した独自のモーション判定機能も付加でき、目的に応じた適切な動きかどうかの確認が可能だ。例えば、工場で作業者が体に重度の負荷をかけるような危険な動きをしていないかをチェックしたり、見本となる動きとの差異率で作業の習熟度を判定することもできる。スポーツのパフォーマンス向上や、VR(仮想現実)ゲーム用途などでの活用も可能とみて、国内外の企業から引き合いが増えている。