【睡眠の日特集】良質な睡眠で生産性の向上を

2018/09/03 04:00 更新


 9月3日は「睡眠の日」。日本では世界睡眠医学会(本部アメリカ)が定める3月18日の「世界睡眠デー」と9月3日の年2回を「睡眠の日」としている。昨年は「睡眠負債」という言葉が注目されるなど、睡眠に対する関心が大きく高まった。日本人の睡眠不足による損失が15兆円にも上ると試算するシンクタンクもある。

 質の良い睡眠が健康増進やアンチエイジング、生産性向上に効果的なことが少しずつ知られてきた。経済産業省は企業に「健康経営」を推進している。睡眠を軸に社員の健康維持、増進に向けて企業の取り組みが活発化している。

(村上洋一)


増えるセミナー

 運動、食事、睡眠は健康の3大要素といわれ、とくに睡眠は仕事での生産性や働き方にも大きく関わってくる。

 昨年から今年にかけて、社員に睡眠の重要性を伝えるセミナーを開催する企業が増えている。医師による医学的な睡眠へのアプローチではなく、現状の中で「いかに睡眠の質を高めていくか」をテーマにする。

 「今年に入って企業からのセミナー依頼が増えている」というのは西川産業だ。企業の人事部、総務部が福利厚生の一環としてのセミナーを開催する。

 寝具メーカー各社は商品開発の一環として、睡眠研究に取り組んでいる。社内資格制度を設けて専門知識の習得に力を入れており、企業向けの睡眠セミナーなどを実施しているケースも多い。同社はこれまでも、地方自治体や学校、企業での睡眠セミナーを開いてきた。企業からのセミナー依頼が増えてきたこともあり、教育の専門部署を設けた。今年は大手企業を中心に20社ほどでセミナーを開催する。

 企業にとっては、社員の健康維持と生産性の向上は両立しなければならない課題だ。社員を大切にする企業姿勢を見せることが企業の価値を高めていく。人手不足の時代、超高齢社会が目前に迫っている中で、企業には健康でいきいきと仕事ができる環境作りが求められている。

自社で養成した「スリープマスター」をセミナーに派遣する(西川産業)

睡眠で社会貢献

 睡眠をテーマにユニークな取り組みをしたのが日清食品グループ(東京)。睡眠に対する啓発活動をCSR(企業の社会的責任)と連動させた。

 昨年から今年にかけて行った「六十年寝太郎プロジェクト」は社会貢献としての寄付と社員の睡眠改善促進を組み合わせた。

 60年の時間を53万1000時間とし、参加した社員の睡眠時間合計がその時間に達成したら寄付を行うというもの。グループ会社も含めて約400人が参加した。昨年12月にスタートして32週で達成。日本の子供の貧困対策に取り組む「子供の未来応援基金」(事務局内閣府)に45万1000円、国連の食料支援機関WFPの「学校給食プログラム」に60万円を寄付した。

 毎日7時間30分の睡眠時間を目標にした。自動的に睡眠時間を記録し、スマホで管理できるウェアラブル端末を支給してデータを集積。期間中は社内のイントラネットに情報発信や参加者同士のコミュニケーションの場を設けた。同社が行ったアンケートでは「睡眠を意識するようになった」「睡眠の実態を知ることができた」という意識の変化のほか、パフォーマンスが向上したと答えた人が全体の64%だった。これは「予想以上」(角田伊久子日清食品ホールディングス広報部CSR推進室室長)という。同社は50年間に100の社会貢献活動を行う「百福士プロジェクト」を2008年から行っており、今回の「六十年寝太郎プロジェクト」はその第21弾。健康関連はコンテンツの一つ。ウォーキングやダイエットなどにも取り組んできた。「健康プロジェクトは人気で、社内コミュニケーションの活性化と生産性向上にもつながる。社員が楽しんで参加することで社員自身にもメリットがあり、それが社会貢献につながる。社員みんなで企業価値を高めていくこともにもつながる」としている。

イントラネットでは途中経過のほか、睡眠法や快眠コラムなどを掲載(日清食品ホールディングス)

 こうした日清食品グループの取り組みをデータ収集、集積でバックアップしたのがドコモ・ヘルスケア(東京)だ。同社はNTTドコモとオムロンヘルスケアによって12年に設立された。一般消費者向けアプリを提供してきたが、企業の健康経営、働き方改革に向けた動きが活発になったことから企業向け支援を強化。健康プログラムの提供のほか、睡眠関連では、ウェアラブル端末「ムーヴバンド3」と睡眠状態が管理できるアプリ「わたしムーヴ」によって睡眠を「見える化」している。これまで企業のほか、健康保険組合などをサポートしている。同社独自の調査では睡眠も含めた健康は、「人間関係と同じくらいに仕事のパフォーマンスに影響する」という結果が出ているという。健康は企業成長の大きな要素の一つとなっている。

睡眠を管理するアプリ「わたしムーヴ」(ドコモ・ヘルスケア)

 運動、食事、睡眠のどれが欠けても健康を維持、増進することはできない。それぞれをバランスよく考えることが大事だ。

 今は各分野での研究開発が進んでいる。ブームともいえるランニングやハイキングでは、走りやすく歩きやすいシューズが広がりを見せているし、健康のための自然食品の人気も高まっている。睡眠関連では、枕やマットレスパッドが大ヒットし、ファッションではリカバリーウェアなども浸透しつつある。ウェアラブル機器で自分の健康状態を把握することもできるようになった。

 これからは、それらの分野が互いに連携し、協業することが重要になってくる。健康経営を目指す企業はコンテンツのトータルプロデュースを求めるようになるだろう。専門性を提供し合うことで、よりトータルで質の高い、訴求力のある提案ができるようになる。それが企業や消費者などの意識を高め、そしてマーケットを広げていくことにもつながる。


特集記事一覧

上質な眠り提案する「スリープデイズ」

TWO(東京、東義和社長)のオリジナルブランド「スリープデイズ」はより良い睡眠を通じて上質な暮らしと自己実現をお手伝いするリカバリーウェアとサプリメントのブランドだ。

先進国の人口の3割が悩みを抱え、日本では4割もの人が慢性的な睡眠障害と言われる現代に「睡眠を大切にするライフスタイルを提案したい」(宮武士マーケティングマネージャー)との思いからスリープデイズは16年に商品を発売した。睡眠負債などが社会問題化する中で「ちょっとした自分への投資で、自身や大切な人たちとの時間が豊かになる後押しをできれば」と商品開発を進めてきた。

「睡眠に関する200人アンケート」

 繊研新聞社では9/3付け「睡眠の日」特集に合わせてウェブ媒体「繊研plus」のメールマガジンの読者にご協力いただき、「睡眠に関するアンケート」を実施いたしました。アパレル、ファッション小売り、商社、流通など男性120人、女性80人の200名から回答ありました。アンケート開始からすぐに多くの方から回答が寄せられ、睡眠に対する関心の高さをうかがえました。

快眠・健康/素材の話

 ブレスエアー(東洋紡) ブレスエアーは樹脂を繊維状に加工し、3次元状に絡み合わせたクッション材。「ウレタンに替わるリサイクルできる素材」として東洋紡が開発。1996年に発売した。2013年からは海外での販売をスタートしている。通気性が良く、高いクッション性と耐久性に優れているのが特徴で、寝具やソファの中材や新幹線の座席など車両にも広く活用されている。年間に1500トン生産し、生産量は毎年5~10%伸びている。



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