ファッション・アパレル企業大手のEC支援で多くの実績を持つSCSKプレッシェンドとダイアモンドヘッド。コロナ禍という経験したことのない出来事で加速したECシフトへの対応に「オンラインファーストのOMO」というビジネス概念を提唱する。その取り組みにいたるビジネス的な背景やOMOを志向したシステム設計の考え方、今後の変革に向けた対応について、両社のけん引役である、SCSKプレッシェンドの桑原氏とダイアモンドヘッドの今井氏に聞いた。
――大手企業のECを支援し実績を上げてきた両社は、コロナ前からのアパレル産業の構造的課題をどうみていましたか?
桑原 各社の事情や状況があると思いますので一概には言えませんが、消費傾向の変化に伴う百貨店業態の縮小、業界全体としての過剰供給やデザインのコモディティ化、値引き販売の常態化、環境問題などの構造的な課題が山積するなか、量的な観点から質的な観点へシフトしていく動きがより具体的に見え始めてきたと考えています。
その中で最も顕著なのが「オンラインへよりシフトする」、「オンラインとオフラインを融合させる」という点になると思います。
今井 コロナ前から多くの経営者がオンラインシフトという方向感を持っていました。しかしながら、それを実現する仕組みを整えていく点については、多くの企業がまだその過渡期にあると考えています。お客様情報や在庫情報を統合し、最適なチャネルでリーチする、販売する、というような部分がベースになる訳ですが、まだ一部の実現に留まっている事業者や、実現していても仕組みに問題を抱えている企業が多いのが実態です。
――コロナ禍のEC支援の現場ではどのような課題が浮き上がってきましたか?
桑原 ベースとなる仕組みがどこまであるか、という点はコロナ禍での各社の対応で差が出た部分かと思います。実店舗含めてのお客様情報が十分に共有されていれば、オンラインから多くのお客様へリーチできますし、在庫情報が共有されていれば唯一の販売チャネルとなったオンラインで多くの商品を販売することができました。
今井 巣ごもり消費で、在庫のあった自社ECの売り上げが特に伸びました。支援する企業では4~6月が70%増から150%増でEC売り上げは平均2倍になりました。こういった背景から、オンラインにお客様が集中してシステムや物流面を中心に急激なトランザクション増加が発生しました。この対応も大きな出来事の一つだったと思います。
布マスクの販売が顕著でしたが、大手サイトでも停止してしまうような状況がありました。よりオンラインへのシフトが進んでいく中で十分なスケーラビリティあるシステムを構築できているか、という点の重要性が改めて認識されていると思います。
桑原 物流面では、店舗用在庫が行き場を失い、当社で運営しているEC倉庫の方で引き受けて欲しいとの要請などもありました。倉庫を急に広げる、その対応人員を急に確保・養成するといったことは非常に難しい問題です。思うような販売が出来なかったり、販売してもお届けまでに非常に長い時間が必要となってしまった企業も多かったのではないかと思います。
今井 コロナ禍で販売がECだけになった状況を、消費者も事業者も経験する中で明らかに“オンラインを上手く使っていかないとダメだ”という風潮になってきたと思います。ECを強化しつつ顧客管理など事業インフラもデジタル化したいという相談が増えています。
――浮き彫りになった課題は今後に向けて考慮しなければならないものですが、どのような対応を考えていますか?
桑原 オンラインのトランザクション集中は、システム面と業務面でとらえています。我々が提供するECプラットフォーム「F.ACE」はコロナ禍の急激な変化にも対応することが出来ました。スケーラビリティという意味では、年商1000億円規模を想定した設計となっていますが、継続してパフォーマンスと可用性の向上に取り組んで参ります。
業務面についてはいくつかありますが、物流機能をどのように形成するかが大きなポイントかと思います。変動する需要の中で最大値に合わせて設備や体制を構築することは非効率であり、コストへの影響が大変大きいです。今回、当社では複数の物流拠点を共通化した倉庫内システムで運営していたため、拠点全体としてのスペース拡張、業務配分調整などにより、急激なトランザクション増加にも対応することが出来ました。今後も変動する需要に対していかに柔軟に対応できるかが更に重要になってくると考えています。クライアントとの連携を密にし、柔軟な仕組みで継続的に能力を見直しながら運営して参ります。
今井 ベースの仕組みという部分については“F.ACEやストックコントロールシステム(SCS)を入れておいて良かった”という声をたくさん聞いています。SCSは自社ECとECモール、企業によってはカスタマイズして店舗在庫も共有し、売れるところで売れる商品を引き当てるシステムです。現在のクライアント、新しいクライアント含め、更にご利用いただけるように供給体制を強化し、展開していきたいと考えています。
――ECシフト、デジタルシフトが自然の流れになってきました。「F.ACE」を含めて支援企業として、何が求められると考えていますか?
桑原 コロナ禍はデジタル、ECへのパラダイムシフトのきっかけになりました。多くの経営者から3年から5年早まったという認識をお聞きします。これまでオンラインでの買い物に抵抗を感じていた人が垣根を超えた部分は少なくありません。便利な社会、新しい買い物体験をした人も増えたと思います。そういったお客様に対する販売機会を最大化するためにも、顧客情報や在庫情報を統合したOMOの仕組みにシフトすることが求められていると考えています。
また、コロナ禍ではオンライン上で、これまでの数倍のトランザクションが発生しました。今後は、更に大きな規模のシステムが必要になるということです。システムの規模が大きくなればなるほどリプレイス(システムの置き換え・移行)は難しくなります。この数年、大手企業でもリプレイスに失敗する事例がありました。大規模プロジェクトをマネジメントする力が支援企業としてもより問われてくると考えています。
今井 実店舗の位置づけも変わります。実店舗は減少傾向にありますが、商品を確認できる場所としての意味は強まります。ショールーミングなど今までとは違った役割を担うことへの対応も我々が考えなければならないことの一つです。
また、ブランド側でもインスタライブなど新しい挑戦があちこちで生まれました。今後もこの流れは継続するはずです。我々はそういった新しい挑戦をサポートするような仕組みを創り出して提供し続けなければならないと考えています。
桑原 一方で、クライアントの経営環境は非常に厳しいという現実があります。いくら成長領域とはいっても、大きな投資は難しい企業が多いです。このような環境下でもなるべく支出を抑えて必要な仕組みに変えられるようなサービスであることも、意識しなければなりません。
――それは具体的に何を指していますか?ウィズコロナ、アフターコロナの中で、EC支援企業として今後、何に取り組んでいきますか?
桑原 我々自身がEC支援企業からOMO支援企業へもっと変わっていくということです。具体的には顧客情報、在庫情報の統合やその情報を活用してビジネスを成長させるシステムや業務サービスなどに、よりシフトしていくということになります。
従前より、我々は様々なインテグレーションをしながらOMOに取り組んできました。しかしながら、その実現に際しては、多くのシステム間連携が必要であり、様々な部分最適のための個別要件が存在するなど、コストが多くかかる、期間が長くかかる、オンラインの視点から見ると制約が多い、といった課題がありました。こういった課題を解消するアプローチを考えていく必要があります。
今井 この課題の背景には、今まではECやOMOの仕組みが、実店舗のビジネス中心で求められていた部分があります。しかし、これだけ大きなパラダイムシフトが起き、社会がオンラインにシフトするなかでは、よりオンラインにフォーカスした仕組みにしていく事が自然な流れです。
また、今後のシステムを考える時、今の“独自”の仕組みは本当に必要なのかを改めて考えることも重要です。個々の企業で既存のやり方はバラバラで開発に負荷がかかります。時間と費用を抑えて業務効率を上げるために、どうするかを考える必要があります。
桑原 その一つの答えとして、F.ACEをオンラインファーストのOMOプラットフォームにアップデートしています。F.ACEの中でOMO機能を実装することにより、従来実施していたオフライン中心の仕組みとの連携開発を削減すると同時に、よりオンラインに最適化された機能を実現することができます。OMOがサービスとしてご利用いただけるモデルとなることにより、コストや期間の問題も大きく改善すると考えています。
今井 オンラインにフォーカスしていく中で、実店舗は少なくなっていくと思われます。しかし、少なくなっても実店舗には実店舗の役割があり、より多くの機能が求められると考えています。OMO機能については、実店舗のスタッフの方々にもご利用いただくことになります。F.ACEを使って新しい買い物体験を作り上げるサポートをしていきます。
桑原 今年5月、SCSKがダイアモンドヘッド社に出資し、資本・業務提携契約を締結しました。今後もシステム開発や業務のシェアリングなどアパレル企業を支援する体制を共同で作り上げていきます。そのベースとなる思想は、オンラインファースト、オフラインがオンラインに参加できるOMOの実現だと考えています。
大きく変わっていくこの環境において、今後も両社の連携を強め、新しい時代に向けたサービスを生み出していきます。