買わせない売り場が◎の意味
「どうすればもっと買ってもらえるのか…」という悩みを方々から聞かれる。実は、店舗で「買いたい」と思っていないお客様のほうが買っている、と聞いたらどう思うでしょうか? 逆説的だけれど、いわば「買わせない売り場」が今のお客様には合っているようなのだ。
買い物に行く文化がない?
「買い物に行くっていう文化がないんです」。20代前半の女性にインタビューしていたときに出てきた発言だ。
これを商業施設を運営されている方々にご紹介すると、大変驚かれる。商業や消費に携わる私たちからすれば、当然、ショックを受ける言葉なのだが、彼女たちにとってはそれが当たり前になっている様子。
今の若い世代は、買い物を目的に出かけることがあまりないらしい。では、買い物をしていないかというとそうではない。遊びに行ったついでに、あるいは会社帰りの寄り道で店舗に寄っているのだという。
私たち駅消費研究センターでは、駅・駅周りの商業施設を始めとして、都市部の生活者を中心とした消費行動・心理を研究している。私たちの調査による定量的なデータでも、先ほどのような買い物の様相が明らかになった。
調査では、駅ビルを対象に、来店の動機と買い物の傾向などを聴取。来店動機を把握するために、アンケートで次のような気持ちがあるかどうかを尋ねた。
「欲しいもの、好きな商品を見たい・買いたい」や「セールや特売で、賢い買い物をしたい」「同じ趣味や関心を持つ人々とコミュニケーションを取りたい」「『自分らしさ』『ステータス』を感じたい」「ストレス発散をしたい」「頑張った自分にご褒美をあげたい」など。
その結果を因子分析し、回答者を次に挙げる五つの来店動機クラスターに分けて、買い物の傾向を分析した。
①解放を求める因子と、買い物の功利的価値を求める因子をもつ「気分転換買い物派」
②解放を求める因子のみをもつ「ウィンドーショッピング派」
③何も因子をもたない「無関心・暇つぶし派」
④社会性を求める因子をもつ「人との関係性・自己確認派」
⑤買い物の功利的価値を求める因子のみをもつ「買い物功利派」
さて、このクラスターごとに買い物の傾向を見たところ面白いことがわかった。
いわゆる買い物をしたいという「買い物功利派」よりも、その店舗に行って自分らしく過ごしたいと感じている「人との関係性・自己確認派」の方がボリュームも大きく、来店頻度も高かったのだ。
さらに驚いたのは、「人との関係性・自己確認派」は、1カ月の駅ビルでの使用金額も最も多くなっていた。
単に来店して滞在するだけではなく、しっかりと購入もしているのだ。一般的に考えれば、買いたいと思っている人のほうが購入するように思える。しかし、この結果から見えてきたのは、実は「買いたい」と思っていない人のほうが買っている、という逆説的な実態なのである。
(下)に続く
松本阿礼(まつもと・あれい)
駅商業施設の開発調査や駅ビル中心に販促プランニングに従事した後、現職。駅・駅周りの消費や都市部生活者の行動・心理を研究し、商業施設づくりのヒントを提言している。共著に『移動者マーケティング』(日経BPコンサルティング)。一級建築士