理化学研究所(理研)はこのほど、高強力なクモ糸に近い構造の高分子材料を化学的に合成する手法を開発したと発表した。従来の微生物合成法よりも低コストで人工クモ糸が得られるとし、普及への期待が高まりそうだ。
理研環境資源科学研究センター酵素研究チームの土屋康佑上級研究員、沼田圭司チームリーダーらが開発、研究成果を米科学雑誌『ACSマクロレターズ』オンライン版に掲載した。同チームは2段階の化学的手法を用いた。
まず、アミノ酸エステルを材料に、化学酵素重合によって2種類のポリペプチドを合成。さらにこれを重縮合によってつなげることで、クモ糸に似た一次構造(たんぱく質を構成するアミノ酸配列)および二次構造(アミノ酸配列が形成する局所的な立体構造)を持つ物質が得られた。
この合成手法では、任意の一次構造を作ることが出来るため、材料の物性コントロールが可能という。また、これまでに開発されている微生物を使った合成法よりも低コストで大量のポリペプチド材料が得られるため、既存の石化由来の高強度材料の代替品として期待できるとしている。
天然の構造たんぱく質材料であるクモ糸は、鉄や高強度合成繊維に匹敵する強さを持つことが知られる。これを人工的に作り出す試みは世界的に行われており、国内では微生物発酵によるプロセスで量産化研究を進めるスパイバー(山形県鶴岡市)、蚕の遺伝子組み換えでクモ糸を作らせる農業生物資源研究所の研究などが知られる。