企業の成長持続のために知るべきこと 第13回

2016/05/25 10:08 更新


企業改革講座⑬
企業が成長を続けるために知るべきこと行うべきこと

MD最適化‐2  本当に売れ筋を把握できていますか?

 

 今回の企業改革講座は、昨年掲載して反響があった「MD最適化」の第2弾です。今回は、ファッションビジネスや小売業にとってもっとも重要な「売れ筋の商品が、本当に把握できているのか」について考えていきたいと思います。

 どこの会社のバイヤーに「売れ筋商品をわかっていますか」と尋ねても「もちろん」と答えます。どのバイヤーも、担当アイテムの週次の売り上げの順位表を食い入るように見ますので、その週に売れた商品は間違いなく把握しているはずです。

 



それでは少し質問を変えて「今もっとも売れる、力のある商品はどれですか」と聞くと答えはどうなるでしょうか?

 



 恐らくこの問いにバイヤーが即答できる企業は、今回のテーマである本当の意味での「売れ筋の把握」ができている企業のはずです。

 商品の発注者は、売れ筋を理解できていることが大前提ですが…バイヤーが週次の商品の動向を見るのは主に、仕入れた商品について建値(プロパー、投入時の価格)の消化がどれだけ進み、そして期末までに最終の消化換金率をどれだけ高められるかどうかを読み、マークダウンのタイミングや店間移動の判断を行うためです。さらに良く売れた商品については、追加仕入れの可否などを確認し、必要に応じて手配を行います。



 ただ、バイヤーの業務の中で本来重要なのは、今期の仕入れ商品の消化促進、粗利・換金高の最大化に加えて、顧客に本当に支持されている商品は何かを見極めることであり、かつその商品の「売れる力」の強さを把握することです。



 前回の「MD最適化①」では、S、A、B、Cランク別のランキングMDの重要さについて述べ、Sランク商品を積み上げてランキングMDの傾斜をつけることで、売り上げを高めることができる場合がとても多い点に触れました。ただしその前提は、バイヤーなどの発注者が「どの商品が顧客に支持されているのか」「購買に当たり、顧客が何を重視しているのか」「その強さはどのくらいか」を把握できていることです。

 

改革講座13回03
顧客に本当に支持されている商品は何かを見極めることが大切



 店の責任者である店長に発注権限を与え、店舗MDの役目を負わせている企業をよく見かけます。確かに店長は日々の接客の中で、お客様に五感をもって接していますので、仮にうまく言葉で表現することができなくても何が売れ筋の要素なのかを肌で理解しています。発注のガイドラインとなる考え方さえしっかりと浸透させれば、時間がかかっても強力な店舗MD体制をつくり上げることは可能でしょう。

 一方、バイヤーは日々の数字をにらみ、商品の消化促進に意識と時間配分が向きがちです。そして忙しさのあまり、「投入した商品に顧客がどれだけ強く反応しているのか」の把握とそのための分析作業が、つい後回しになっていることがあります。

 



■バイヤーがPCの前に座り続けるわけ

 少々、余談ですが、

 

「パソコンの前に座っていないで現場に行け!」

 

とバイヤーに怒鳴りちらす創業者の方によくお目にかかります。確かにバイヤーが現場で接客の数をこなせれば、顧客のプロファイリングがしやすくなり、発注の精度もあがるのは間違いありません。しかし、別にバイヤーは好き好んでPCの前に座っているわけではありません。個店で見聞きしたことが全店レベルでは正しいのかどうかの検証も含め、全店での数字の把握や分析作業が必要になってくるからです。

 

改革講座13回02

 

 セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長がかつてイトーヨーカ堂の業革に着手した際、「現場に行くな」という指示を出したのは有名な話です。現場で見た時のイメージだけで判断すると、木を見て森を見ずということになり、全体感を見誤ることになります。小売業ではまだ、現場主義の徹底が当たり前の時代に、この鈴木会長の指示は画期的でした。

 また、バイヤーがPCの前に座っていなければならないのには、もう一つ理由があります。MDに関しての知りたい分析を操作一つでできるシステムを有している企業など、ほんの一握りです。多くの企業では、結果を得るために様々な操作が必要となりPCの操作に多くの時間がとられてしまいます。当時のヨーカ堂も、情報システム投資を積極的に行い、必要な実態把握が可能になる環境を作っていきました。

もし経営判断としてバイヤーをもっと長時間、現場に行かせたいならば、まず、事業規模や競合状況に相応の情報システムの工夫と投資、環境の整備が必要です。さもなければバイヤーに不完全な業務しかできない状況をつくってしまうだけです。



■商品の持つ力を把握する



 さて話を戻すと、少量のみの発注を行った商品は、顧客の琴線に触れて一瞬にしてほぼ完売状態になることもあります。一方で週販では大きな数字を上げていても、大量の在庫が積まれている場合もあります。特に店頭に積まれた大量の商品は、お客様にとって「この商品はお薦めですので、たくさん仕入れました」というメッセージとなり、商品の販売には追い風の状態が作られます。

当期の消化促進もバイヤーの重要な業務ですが、建値での売り上げを最大化するためには、

・期中に、追加発注の余地がどこにあるのか
・来期の商品発注に当たり、Sランク商品の見極め精度をどれだけ高めることができるか

の把握が課題になります。

 つまりそのためには、今期仕入れた商品の中で、「どの商品に本当に力があるのか」「その力はどのくらいなのか」「その理由は何か(=顧客は何に反応しているのか)」を把握できている必要があるのです。
 ここでは商品の企画・発注精度を高め、売り上げと粗利を最大化するPDCAを回す際に「見える化」すべき「管理ポイント」として、商品の持つ力をどう把握すべきかについて述べていきます。

 

 

■管理ポイント①どの商品に本当の力があるかを見極める

 

 本当に「力のある商品」は、どうやって特定すべきなのでしょうか。単に、週によく売れた商品を順番に並べて見ているだけで良いものなのでしょうか?誰でもわかっているようで、実はバイヤー次第で主観的に判断されがちな、この重要な点を考えていきます。

仮に、ある週に同じ数だけ売れた、AとBの二つの商品があるとします。

・商品Aはその週に100個売れましたが、店頭の在庫は1000個ありました。

・そして、その週に、同様に100個売れた商品Bは店頭にあった在庫が200個でした。

さて商品Aと商品B、どちらの商品の力が強いと考えられますか?そしてその商品の力の差はどのくらいあると読みますか?

 

店舗数など条件によっても異なりますが、ここでは100店舗のチェーン店であり、これらA、Bの商品は全店で展開されていたと仮定します。

 商品Aは、平均1店舗当たり在庫が10個ずつあることになります。現実には全店に同じ個数が投入されているわけでなく、30個納品された大型店もあれば、5個しか納品されていない売り上げの小さい店もある。つまりその週は、店頭に在庫が潤沢にある状態で、平均1個ずつ商品が売れたことになります。

 それに対して、商品Bは平均すると各店舗に2個ずつ商品が投入されている訳ですが、実際には1個だけしか納入されていない店もあるのでしょう。1個だけしか商品が納入されず、もし初日に売れてしまっていれば残りの数日間は、その店では欠品状態だったはずです。

 

 つまり200個が100店舗の店頭で展開され、100個もの売り上げ実績がある場合は、間違いなくその週にすでにいくつかの店で機会損失が起きていると考えられます。さらに考えてみれば、商品Aに比べれば店頭でのボリューム感もありませんから、目立ち方にも大きく差が付きます。それでも商品Bには、商品Aと同じ個数を売る力があるとみなせることになります。



 商品の動きをしっかりと把握できるシステム環境や、適切に「見える化」された帳票の設計がされていない企業はとても多く、単純に週次の売り上げ個数のみで「売れた」「売れなかった」を判断せざるをえないバイヤーは相当数います。

 しかし、同じ販売数であっても、この例のように他の尺度から見ると商品の力には差が見いだせるものです。この展開した商品の本当の実力を把握できなければ、「顧客がどの商品を支持しているのか」がわからないために、その時点で「市場との乖離」は始まっています。

 さらに考えてみると、仮に週の売り上げ個数が同じであり店頭に展開されている在庫数が同じだとしても、

・その商品が店舗投入したばかりなのか

・投入してから数週間、時間がたっているか


でも条件は大きく変わります。

 また、もしこれが衣料や靴のようにサイズのバリエーションのある商品であるならば、商品投入後しばらく時間がたてば、売れ筋の中心サイズがすでに多くの店で欠品を起こしている可能性があります。一見、品番で店の在庫を確認したときには商品が十分あるように見えても、実は、XSやXL、XXLなどの端サイズばかりが残っていて、多くの顧客が買いたくても買えない状態になっていることも多々あります。

 

改革講座13回01



こうして考えると、商品の売れ筋ランキングといっても、

①もっともシンプルな見方である週の売り上げ個数(在庫がふんだんにあり、常に補充されている場合はこの数字でも問題なし)

②当週までの商品の消化状況

③店頭での展開開始からの売り上げ初速の角度、もしくは在庫が十分ある場合の直近の角度。あるいは店頭で欠品状態になるまでの週数。(この週数を見る場合は、その商品の価格帯や特性によって商品消化率が何%で欠品状態とみなすのかを決める必要があります)


と大きく分けても三つの見方があります。

 我々がまず知りたいのは、多くの商品の中で「どの商品に市場に支持される真の力があり、それはなぜなのか」です。あるチェーン店展開しているブランドで、社内でも優秀といわれているバイヤーの一人が担当しているアイテムで、三つの基準でトップ20の商品の「見える化」を行ったことがあります。「売れ筋の定番はわかっていますし、在庫は十分に積んであります」と彼は豪語していましたが、実際に「見える化」をしてみると、十分に在庫を積んでいたはずのトップ10品番の欠品は何週間も続いていました。

 彼は、期中は商品の手配や消化促進などの「いわゆるバイヤー業務」に忙殺され、肝心の期初のSランク商品の発注については毎年必要量の数分の一程度しか積めておらず、機会損失を起こした「売れ筋商品が欠品している売り場」が常態化していました。結局、このブランドでは、かつて店を出せば売れた時代のやり方をそのまま続け、MD精度を高めるためのPDCAも回っていないままに各バイヤーの業務が放置されていました。

 

 

■管理ポイント②客に受けている「キーワード」を探す

 BtoC(企業対消費者取引)ビジネスにおいて、顧客が「この商品は、ここがいい」と思い、購買行動につながる要素を「キーワード」と呼びます。その商品が売れた理由であるキーワードが把握できれば、単に同じ商品を追加発注して量をそろえ、別の方にも買っていただけるだけではなく、ファッションビジネスにおいては、そのキーワードを持つ別の商品も買ってもらうことができます。

 

改革講座13回04



 例えば、ワンピースの売れ筋の品番がわかったとします。その人気商品を追加生産して、そのシーズンに間に合うように店頭に並べることができれば、売り上げを確実に作ることができますが、それには短い納期で納入できる国内生産品であり、しかも工場側に素早く追加発注できる生産背景をもっていることが前提になります。

 ここでもし、そのワンピースの売れ筋商品群から、売れ筋に共通する「キーワード」が、例えば「チェニック丈」であるということがわかればどうでしょうか。「チェニック丈」の商品が売れ筋になっていることがわかれば、それがそのシーズンの「キーワード」を持つ商品ということになりますので、今から「チェニック丈」の他の商品を仕入れることができ、あるいは間に合うならば企画して、新規発注することもできます。

 この「キーワード」を明確にすることは、実は商売において大きな意味を持ちます。単なる同じ品番商品の追加発注であれば、まだ持っていない方にも買ってもらえるようにするわけですが、このシーズンの売れ筋「キーワード」商品は、未購入の顧客のみならず、すでにその売れ筋商品を購入した顧客にも、ワードローブ(持ち衣装)として、さらに何着も色違い、柄違いを買ってもらえる可能性が出てきますので、ビジネスの機会はさらに大きくなります。(下記チャート参照)

 

改革講座13回



 商品を市場に投入した時に、どれだけの「強さ」で売れたのかを「見える化」して把握できていない企業は、瞬時に欠品した商品も含めて、仕入れた商品が果たしてどれだけ強い力を持っていたのかを知るすべを持たないことになります。そして商品の企画、発注精度を高めるためのPDCAが適切に回らずに、せっかく企画し実施した結果からの「学び」を得られないまま何期も過ごしてしまうことになります。そして結果としてお客さんがその商品のどの部分が良くて反応したのか、その売れた商品の「キーワード」の強さ加減に確信を持つことができないままに甘い発注を続けることになってしまい、期中の後追い対応に忙殺されることになってしまいます。

 先ほどの、チェーン店展開しているブランドでは、三つの指標でトップ20商品を写真付きで並べて「見える化」することで、明らかに顧客が求めている「キーワード」が誰の目にも明確になりました。

「あ、お客さんが反応していたのは、こんな簡単なことだったのですね」


 バイヤーの彼は、「キーワード」満載の商品の発注量を積み、見事に売り上げを大きく伸ばし、かつ消化率も高い数字を作る、期単位のPDCAを回し始めました。


■企画・発注で精度高いPDCAを回す

 PDCAを精度高く回すためには、業務の「管理ポイント」の「見える化」を工夫する必要があります。「見える化」した適切なフォームをつくれば、確認できる幅と精度、スピードは格段に上がります。重要な判断のためにはグラフ化も必要です。最初はプロトタイピングに手間がかかっても、使い勝手を改善しながら運用してみた上で、皆が使いやすいようにシステム化するということも考えなければなりません。

 

イメージ写真/Shutterstock.com



この記事に関連する記事

このカテゴリーでよく読まれている記事