ファッション業界の採用は売り手市場が続いている。コロナ禍後の急激な採用活動は「落ち着いた」との見方もあるが、企業の構築や成長に新卒および中途採用の取り組みが重要になっている。採用の早期化が進むなか、ファッション・アパレル業界に特化した人材関連サポート企業に、25年や26年春採用の現状、企業の取り組みについて聞いた。
若手と女性が力を発揮できる職場作りを
エントリー数減少
――25年春卒と26年春卒の採用活動の状況は。
FB(ファッションビジネス)業界では23、24年春の新卒採用を増やしてコロナ前並みに戻した企業が多く、25年春卒は各社の業績に応じて対応が分かれました。当社主催の勉強会に参加する企業では、退職者を補充する必要もあって前年並みの採用をした企業と、減らした企業が多く、業績が好調で採用を増やせた企業は3割弱でした。
26年春卒は他業界を見て「早めに学生の目に触れないと採用ニーズに合った候補者の集団を確保できない」と考える企業が増え、全体に採用が早期化しています。昨年の夏や秋に短期インターンシップ(就業体験)などプレ採用活動を開始し、早い内定は辞退につながるため、選考は1月以降に始めた企業が多い印象です。
志望度の高い学生が集まる2月までのプレ期から内々定を出す会社が多いですが、早期に確保できるのは少数で、採用は7月に終われたらいい方。複数の内定を持つ学生が増え、内定を出した後に何もしないと入社に至らない点が課題です。
3月からの個別説明会も、売り手市場なので学生1人当たりのエントリー数が減少。他業界も含め説明会の参加者は減少傾向で、FB業界でもミセス向けや高級ラインの企業は目標未達が普通です。最近の学生は優しくて断れないのか7~8月まで内定承諾を保留し、内定式の前後の9、10月に辞退する事例が増加しています。26年卒も採用を年明けまで続ける企業が増えそう。一方で採用経費を抑えたり、1月になって採用再開を決めるなど、採用が本当に厳しくなっている現状を理解できていない経営層も多いです。

全社員の一大行事に
――各社の対応策は。
本部職は採用を控えていた時期が長く、中堅がいないため、中途採用に頼る傾向が続いています。販売職は中途採用で補いたくても人手不足で、新卒頼みの状況です。
ある企業では、採用を人事任せにせず、全社員が一大行事と自覚し、大きな会場に職種別のブースを設け、各部署の社員がクイズ形式などで仕事を説明。全員が採用に積極的に関わり、説明会を盛り上げて結果を出しています。別の企業では、10月から通常は2、3回行う面接を5、6回に増やし、学生と人間関係を構築して内定辞退を防ぐ工夫をしています。
――FB業界への提言を。
好業績の企業は若手の使い方がうまい。企画立案は若手に任せ、要所だけ上司が見るなど、若手が伸び伸びと力を発揮できる企業が業績を伸ばしている。業績回復のためにも若い人材の確保は絶対に必要です。
女性の活用も進みませんが、女性比率がこんなに高い業界なので、正論を言われて耳が痛くても、女性を登用していく勇気が必要です。逆に今どき、男性だけで経営のかじを取るのは危険です。
販売は不人気な職種と言われますが、ゲームやアニメ関連グッズの販売職は応募者が殺到しています。楽しいところで働きたいと思うのは人間の真理。情報過多の現代社会でも若い人に選んでもらえるように、楽しめる職場、楽しい環境を演出できないと、ファッション業界が若い人材から選ばれなくなる可能性が高いです。
(繊研新聞本紙25年4月18日付)