アパレル業界の花形とされ、憧れの職として挙げられることも多いMDとプレス。華やかな印象が強い一方で、市場の分析力や企画力、コミュニケーション能力など、様々なスキルが求められ、売り上げとブランドイメージを左右する重要なポジションだ。どんなキャリアパスを歩んできたか。実際の仕事内容ややりがいとともに話を聞いた。
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無駄をそぎ落としたシンプルなデザインで、洗練されたベーシックウェアとして人気を誇る「A.P.C.」。日本ではルックホールディングスのA.P.C.ジャパンが販売。そのメンズのMDを佐藤雅俊さんが担う。業務内容は極めて幅広く、仕入れから企画・生産まで全てが守備範囲だ。
夢への最短距離
「古着屋の店長になりたい」というのが佐藤さんの原点。高校生の頃に思い立ち、大学では経営学部を専攻した。しかし、学びを深めていく中で卒業後は就職することに。何社か内定を得たが、新たな夢としたバイヤーになるには「この会社が最短距離」と考えた。
ルックホールディングスは総合職で入社後、店頭での勤務がなく、そのまま本社勤務となるのが特徴。研修が終わりしだい、すぐに配属先で営業などの実務にあたる。「最初から本社で店舗の運営など、基幹部分を学ぶことができる。実際に1年目から働けるというのが決め手になった」
17年4月に新卒で入社し、レディスの「スキャパ」「キース」の営業を経て、18年9月に同職でA.P.C.へ異動。23年1月に現職に就いた。「スタイリングMD」という耳なじみのない肩書きだが、「一部バイヤーのような要素がありつつ、業務内容は通常のMDと同じ」。レディスウェア、メンズウェア、雑貨とそれぞれ担当が1人ずつの3人体制だ。
結果が数字に表れる
業務内容は大きく分けて、①インポート②日本国内でのリプロダクション③日本企画――の三つ。インポートは年に2回、本国パリへ行き、どの商品を何着買い付けるかの選定がメイン。「直接コレクションの説明やブリーフィングを受け、テーマやムードを尊重した上で、今の日本市場のニーズに合うものを総合的に判断する」
リプロダクションは、その中から特に日本市場と相性が良さそうなものを抽出し、日本人の体に合うよう袖丈などのパターンを修正、ジャパン社が主導して生産する作業だ。そこで扱う商品の選定や原料の確保などがMDの役割。
日本企画は、日本で販売するにあたって足りないと感じる要素を掘り起こし、本国へ承認を得て生産する日本オリジナルのアイテムのこと。その判断基準は、アイテム軸や金額面など様々。店頭スタッフの意見や要望を基にすることもある。割合としては、Tシャツなどのジャージー関連が多いという。企画の骨組みを立案し、日本のデザイナーと一緒に企画を練り上げる。そして、リプロダクションと同じく、生産への連動などを行っていく。

そのほかもスケジュール管理や店頭へ送る資料の作成など、細々とした業務が多岐にわたる。目まぐるしい日々の中で、「お客様がうれしそうに買い物をしているのを見たときが一番うれしい。目に見える結果として、数字が如実に出る職種なので、考えがはまって売り上げが上がったときにやりがいを感じる」と話す。
また、日本企画があることで、本国から「このジャケットのパターンデータを共有してくれないか」といった依頼が来ることも。「本国側に少しでも良い影響を与えられているのかな」と感じる瞬間の喜びはひとしおだ。
同社で営業出身のMDは珍しく、佐藤さんは英語もフランス語も話せない。だが、営業時代に培った各店の「この店はこういった商品が強い」という5適(適品、適所、適量、適価、適時)の感覚に優れており、それが強みになっている。
今後の目標は、メンズの新規事業の立ち上げ。度々口にして、その可能性を手繰り寄せている。「まだ日本にはないブランドを広げる仕事をしてみたい」としている。
(繊研新聞本紙25年10月17日付)