楽天ファッション・ウィーク22年秋冬は、テーラードアイテムを軸にするメンズブランドの参加も目立ってきた。スマートなシルエットやドレープ感とともに、量感やカットに独自性を出そうとする姿勢が見える。今シーズンは、優しさを強調するヘアリーなニットウェアのスタイリングが増えた。
【関連記事】楽天ファッション・ウィーク22年秋冬 フォルム、陰影が作る造形美
〈フィジカル〉
テーラードコートは身頃の途中から解体され、ドレスのようにヘムが揺れる。トラディショナルなチェックのスーツ地は、スタンドカラードレスに仕立てられる。「バイアール」の招待により、5年ぶりに東京でショーをしたトーガ(古田泰子)は、ジェンダーを巡る新しい美しさを提起した。テーラードスタイルがドレスへと変わり、構築性と揺れるディテールのコントラストがふわふわとした美しさとなって観る者を魅了する。男性モデルも女性モデルも関係なく、テーラーリングとドレスのそれぞれの魅力を持ったアイテムに身を委ねる。
ベアトップのニットはペプラム状にウエストが膨らみ、ジャケットはヘムからチュチュのようにふわふわとした布地をのぞかせる。透ける生地をスーツ地やメルトン地に挟み込み、コートのボリュームにアクセントを生み出す。ラムファーのようにふわふわとした毛足のコートも、ボリュームのコントラストで軽やかに見せる。ジャカードのパンツスーツは、袖の後ろ側がケープのように丸く背中を包み込む。
この間、テーラーリングのマスキュリンな要素を取り入れたコレクションを続けてきたが、これまでは男性モデルを使っていてもあくまでも女性のための服に収められていたように思う。しかし、秋冬は本当の意味でジェンダーフリーを感じさせるもの。たとえ、それがドレスであってもベアトップであっても、男性が着ようが女性が着ようが構わない。そんな自由な気分を感じさせる。ベアトップを着た男性モデルが、映画「リトルダンサー」の主人公ビリー少年に重なって見える。「自由に踊っていいんだ」。モデルに合わせて軽やかに揺れる服の動きが、そんな高揚感を生み出した。
(小笠原拓郎)
ベースマーク(金木志穂)は、都心のレストランでショーを行った。天井が高く、赤い照明がともされた薄暗い空間。テーマは「シュールレアリスム」。ディテールをデフォルメしたアウター、うねりのあるテクスチャーや装飾を組み合わせ、オレンジ、グリーン、ブルーをキーカーラーに、可愛らしさと奇妙さが入り混じったレイヤードスタイルを見せた。うねうねとした抽象画のような柄のシャツ、抜染したボーダーのTシャツなど、主張のある柄を重ね、すっきりとしたテーラードジャケットを合わせてクールに見せる。レイヤード仕立てのタートルネックのプルオーバーに、3配色の大柄チェックのシャツを差し込み、その下にはプリーツスカート。ニットの一部がストールになって頭から首へと巻き付けたカーディガン。複数の着こなしができるアイテムを、金木らしい柔らかみのあるバランスで見せていく。大きな襟の付いたダッフルコートは、背中のジップを開けてオフタートルのセーターをむき出しに。あるはずのないところに、直線でカットした襟のディテールが加わる。その印象がシュールレアリスムを思わせる。大胆な発想に色と柄、シルエットが入り混じる豊かなスタイリングを表現した。
〈デジタル〉
初参加のシュタイン(浅川喜一朗)は、重みのあるアウターウェアを軽やかなバランスで見せた。滑らかな輪郭が目を引くテーラードコートは、レイヤードした前立てや袖下のスリットを生かし、異なる色や素材のコントラストをデザインに取り入れる。しっかりと留めたベルトの上には細いひものベルトを添える。ミリタリーの強さを静かに主張しながら、その対極にある色や線の細さを差し込み、現代的なエレガンスを感じさせた。リバーシブルのダウンジャケットは、光沢を抑えた表地とダウンのボリュームを若干抑えて量感を出したシルエットでスマートな印象に。単調におちいらず、深みを感じさせるのはニットウェアのグラデーションだ。機能素材のオールインワンに、グリーンやブルーが入り混じったモヘアのアンサンブル。デニムにミントグリーンのカーディガンなど、フェミニンさも併せ持った素材を生かし、しなやかな男性像を表現した。
メアグラーティア(関根隆文)は、関根の母校で撮影したモデルのスタイリングを動画で配信した。テーマは「コネクションウィズワンデイ」。欧州ののみの市で見つけた古い手紙をインスピレーションに、過去と現在、未来をつなげて服作りのストーリーを描く。柔らかなツイードを使ったセットアップやブルゾンの生地の表面にはフリンジも伴う。クラシックな素材を、クラフト感のある表情に置き換え、気取らない日常着を作り上げていく。オーバーサイズのシャツやパンツのスリットには、封筒を留める球ひもを生かしたボタン。封筒を模したポケットも付く。オーセンティックな形のブルゾンやスウェットには、多色の糸がボーダー状に編み込まれたディテールが入り、手のぬくもりを感じる。
レインメーカー(渡部宏一、岸隆太朗)は、歴史を感じさせるれんが作りの建物を背景にしたランウェー形式の動画を配信した。雪が降り注ぐなか、テーラードを軸にしたレイヤードスタイルを情景的な描写で見せる。チャコールグレーやベージュなど落ち着いた色合いのテーラードスタイルを艶っぽく見せるのは、毛足の長いショールやふっくらしたベストを羽織ってベルトで留めるスタイル。レインメーカーらしい和服の要素を差し込み、ボリュームと配色のコントラストでモダンなエレガンスに仕上げた。さらにスタイリングの幅を広げるのはニットアイテム。ヘアリーなセーターにベスト、和の文様をアレンジしたグラフィカル柄のコートにローゲージニットを重ね、柔らかな表情を引き出した。
(須田渉美)