楽天ファッション・ウィーク22年秋冬 フォルム、陰影が作る造形美

2022/03/22 06:29 更新


マラミュート

 楽天ファッション・ウィーク22年秋冬は、線やフォルムの出し方、陰影の変化を深く追求する姿勢が目を引いた。どれだけテクノロジーが発達しても、人の手や感覚が新しい造形を生み出すのだと改めて感じられる。女性らしさや男性らしさの魅力を引き立てることも、洋服の重要な機能の一つだ。(写真=マリオンヴィンテージとアポクリファは加茂ヒロユキ、ピリングスは堀内智博)

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フィジカル

 マラミュート(小高真理)は、電球のような球体のオブジェが立ち並ぶ空間でショーを行った。テーマは「アウトオブアクション」。メタリックなハイゲージニットのトップが女性らしい体の線を感じさせ、プリーツスカートが柔らかなドレープラインを描く。一段と豊かさを感じさせる軽やかさを持って、ニットのテクニックを積み重ねる小高らしい表情を見せた。プレーンな編地のニットドレスも、その落ち感を生かした緩やかな袖のライン、リズミカルに揺れるリブ編みのフリンジが、エレガントさを際立たせる。一方で、現代女性のアクティブな一面を感じさせるのはグレンチェックのアウターだ。引き締まったニットがハリのあるショルダーラインを描き、ウエストにタックを入れてシェイプラインを出す。セットアップのスカートも、腰回りにフィットしたラインと膝下のフレアラインとでメリハリを付ける。リラックスしたムードと軽快なテンションと、ニットが持つ特性を、女性の気持ちの変化に置き換えているかのようなコレクション。

マラミュート
マラミュート

 マリオンヴィンテージ(石田栄莉子、清水亜樹)はネクタイ地をつないだカーペットを敷いたランウェーで初のショーを見せた。古着を資材としてパッチワークしながらワードローブを作って6年目、エレガンスを感じさせる線と色のセンスが目を引いた。オーガンディを使ったホールターネックのトップは、後ろ身頃を切り替え、布と胴回りに空間を作って透ける体の輪郭を浮き立たせる。ネクタイを解体してパッチワークしたアイテムは、グレー、ベージュ、マスタード、レッドなど色の系統を合わせ、シャープなカットラインで色艶の美しい柄を際立たせていく。「洋服が好き、古着が好きという純粋な気持ちを大事にしていきたい」と石田と清水は話す。今回は新たに、表地にネクタイ80本を使ってダウンジャケットも作った。ネクタイの艶っぽさと滑りの良さが柔らかなフォルムを描き出す。

マリオンヴィンテージ

 ピリングス(村上亮太)は、手編みのニットで造形性にあふれたコレクションを見せた。会場の天井にはピアノがつるされる。「音のずれが許されない現実社会と、ランウェーで表現される理想との間で生きる人間像に向き合って制作した」と村上。ハニカム状のアランセーターはインターシャを組み合わせた特殊な製法で、イルカやロバ、花のモチーフが表現される。編み目のずれが許されない制約のなかで、自然界の動植物を表情豊かに描いている二面性にも気付かされる。襟や裾がほつれた形状に編み上げたセーターは、クロシェニットのコサージュもばっくりと破れたように開いている。本来ならラフな印象を感じさせる手法だが、ニットの力強いフォルムとともに、どこかエレガンスを感じさせるはかなさも際立った。(須田渉美)

ピリングス

 アポクリファ(播本鈴二)は得意のテーラーリングとリラックスしたパジャマスーツを軸にしたコレクションを見せた。暗闇の中で登場するモデルたちは、一切の光のない演出でおぼろげにもスタイルが見えない。そんなモデルが何人か登場してから、やっとライティングがされて初めてルックが分かる。ひものオーバーベルトを飾ったショールカラーのスーツ、パイピングのパジャマスーツ、モヘヤニットはずるずると袖が伸び、デニムのセットアップにはカーディガンを重ねる。ジャケットのヘムから生地を足して、レイヤードのコートのように。シャツやスウェットパーカもレイヤードで見せる。テーマは「ザ・トワイライト」。

 パタンナーとしての技術を背景に、テーラードアイテムなどのプロダクトにこだわるのは分かるのだが、今回はファッションデザインとしてそのプロダクトをストーリーにつなげていくところが弱い。わざと服を見えないようにする演出も、服を巡るストーリーが明確にならないと意味が伝わらない。ファッションショーは、一点ごとの服の持つ力と、総合的なストーリーとの相関関係で成り立っている。圧倒的な服の存在感が足りないのか、あるいはストーリーとのかみ合わせの問題なのか。自らのオリジナリティーを明確に示すために、どこに力を注ぐべきなのかを考える必要がある。(小笠原拓郎)

アポクリファ

デジタル

 サポートサーフェス(研壁宜男)は前回に続くランウェー形式の動画で配信した。レトロなスタンドライトが並ぶ薄暗い空間を背景にして、前後のシルエット変化を色濃く見せた。照明の陰影を通じて伝わるのは、落ちる線の美しさ。タックパンツは両サイドにも折り返したディテールが加わって、流動感のあるラインを描く。シンプルなコートにも、研壁らしい造形性が行きわたる。ディテールがそぎ落とされたシンプルなトレンチコートは、背中を切り替えて腰上のラインでギャザーを寄せて、エレガントな膨らみのあるフォルムを作る。前方から見たときのきりりとした印象と、通り過ぎた後の柔らかさのギャップが、人の美しさを一段と引き立てる。スタンドカラーのコートドレスはケープの形状を生かして袖の位置で切り替え、フェミニンな丸みを帯びたフォルムに。肩のラインをできるだけスマートに見せる布の使い方と、量感を出すポイントのコントラストに新しい魅力は広がる。

サポートサーフェス
サポートサーフェス

 昨年20周年を迎えたミントデザインズ(勝井北斗、八木奈央)は、ニューフォームをテーマに服の構造や制作過程を見直すコレクションを動画で見せた。インスピレーションとなったのは、イサム・ノグチ庭園美術館にある晩年の彫刻作品。自然の石の形に手を加えて作る造形美になぞらえ、紙の布で造形物を作り、服に落とし込んでいく手法を取る。造形した時には見えなかった、落ちる布の特性が新しフォルムやドレープを生み出す。アシンメトリーな膨らみを持ったキルティングのスカート。胸元からカーブしたドレープを描くドレス。そこにミントデザインズらしい軽やかな配色のプリント柄を乗せていく。柄の出し方も従来とは異なり、抽象的なイメージをグラフィックで表現し、アート作品のような創造性を感じさせる。

ミントデザインズ

 メグミウラワードローブ(三浦メグ)は、前回に続くデジタル発表で、エイジレス、ジェンダーレス、ボディーポジティブをキーワードにしたアウターウェアのコレクションを見せた。秋冬のデザインポイントは「個性に寄り添い、さまざまな人の色が交錯していく」イメージから広げた伝統的な格子柄のアレンジ。ブリティッシュなムードも備えつつ、肩から袖にかけて緩やかなラインを出した立体のパターンで軽やさを出す。ショート丈のキルティングジャケットもある。3サイズ展開で女性から男性まで対応しており、動画では丈や量感のバランスを多彩に見せた。(須田渉美)

メグミウラワードローブ


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