楽天ファッション・ウィーク22年秋冬 カルチャーや価値観を色濃く伝える

2022/03/17 06:28 更新


 楽天ファッション・ウィーク東京22年秋冬は、ブランドの奥行きを伝えるユニークな見せ方が相次いだ。普遍性を持ったタータンチェックのパンクスタイルも、デザイナーそれぞれに異なる視点やカルチャー的な背景、価値観が反映されているのが興味深い。

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〈フィジカル〉

 キディル(末安弘明)は、ロックバンド「サイサリアヒト」のライブを通じて、パンクロック、ハードコアに結びつくクリエイションの一面を表現した。今年1月、パリ・メンズコレクションでコレクションの全体像を発表していることから、「アート的な魅力やカルチャーを大事にしていることを伝える最適な方法を考えた」と末安。ステージには色鮮やかに花が飾られ、5人のバンドメンバーはヘンリー・ダーガーの絵画作品と協業した秋冬コレクションを着用し、全身全霊のパフォーマンスを見せた。服に描かれた可愛らしさと不気味さが交じり合う絵画の世界と、パンクロックの激しさが共鳴する。ファッションモデルが着用する雰囲気にはない、一段と強い反骨精神を感じさせた。

キディル
キディル

 ランウェーには、ふかふかの布団が敷き詰められている。ネグレクトアダルトペイシェンツ(渡辺淳之介)は、うたた寝をテーマにショーを見せた。定番のロックスタイルがいつもとは異なる雰囲気。柔らか味のあるタータンチェックのセットアップはパジャマのように見える。インナーTシャツには、おとぼけ顔のキャラクタープリント。ヘアスタイルが乱れ、寝起きのヤンキーを思わせるモデルが着用するのは、レパード柄のブルゾンにジャージーパンツ。外面の奥にある素の表情が見えて、くすっと笑いを誘う。お決まりの焼きそばパフォーマンスは、なぜかスウェットの〝二人羽織り〟で登場したモデルが立ち食いする。ほんの少し夢を見ていたような緩やかなムードが、現代社会の緊張感を解きほぐすようにも見えた。

ネグレクトアダルトペイシェンツ
ネグレクトアダルトペイシェンツ

 コンダクター(長嶺信太郎)の会場は、円形ステージのある都内のライブホール。ラブをテーマに、愛情の裏にある、とげとげとした感情をあらわにしたショーを見せた。スキンヘッドのモデルが着用するのはシースルーのミリタリージャケット。体に描かれたタトゥーが柄として浮き立ち、憎悪にあふれた表情を際立たせ、下に合わせたプリーツスカートのタータンチェックもさえて見える。定番として人気のミックスツイードのジャケットは、袖にベルトとジップを付けてボンデージ要素を入れる。今回からレディスアイテムも出し、セットアップでショートパンツを着用した女性のモデルが登場するなどスタイリングの振り幅を広げた。ボウタイのシャツドレスには、般若や有刺鉄線をモチーフ化したバロック柄をプリント。人間の感情がないまぜとなったクラシック柄が艶っぽい魅力を感じさせた。

コンダクター
コンダクター

 ペイエン(伊澤直子)は、無機質な地下の空間を会場にしたインスタレーション。テーマはインターナル。自分の内側を外に出すかのように、完成したプロダクトから見えていない部分をあらわにしたアイテムを男女のモデルに着せて見せた。メタリックな糸を編んだキャミソールドレスは、胸元をケーブル編みの立体的なモチーフで装飾し、制作途中のようなほつれたディテールも残す。そのモデルの腰回りを、裏地や芯地をむき出しにしたテーラードジャケットで覆う。工業的でクラフト感も併せ持ったミックススタイルで既製品をアート作品のように表現する。「線を感じさせるものが好き」と伊澤。ニットのテクニックを生かしてアクセサリーも作る。耳まわりをほつれた糸が絡み合ったように飾るモチーフなど繊細さが目を引いた。

ペイエン

 台湾のセイヴソン(ヅゥチンシン)は、様々なワードローブを掛け合わせて「脱構築的なアプローチを進化」させた。昨シーズンも見せた、カットアウトディテールを重ねたウエストシェイプのジャージードレスは、スカート部分のサイドにギャザーを入れてドレープラインを描き、フェミニンな印象に引き寄せる。鮮やかなブルーをキーカラーにした配色のコントラストがモダンな一面を伝える。ベージュとブルーのトレンチコートを重ねたり、トレンチコートに前開きのクラシックドレスを重ね着したりと、異なる要素をドッキングする力強いレイヤードに特徴を出した。

セイヴソン

(須田渉美、写真=キディルは加茂ヒロユキ、ペイエンとコンダクターは堀内智博)



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