楽天ファッション・ウィーク22年秋冬 気持ちの豊かさに向き合う若手のブランド

2022/03/16 11:00 更新


 楽天ファッション・ウィーク22年秋冬は、クリエイションの一つとして気持ちの豊かさに向き合う若手のブランドが目を引いた。洋服を着る、作ることを通じ、人間味や人と人のつながりを伝えようとする作り手は多い。ショーの演出も、個性の主張より共感を誘う姿勢が見受けられた。

〈フィジカル〉

 シンヤコヅカ(小塚信哉)はレトロな雰囲気のレイヤードスタイルを見せた。インダストリアルな空間に登場するのは、オーバーサイズの古着のような服たち。ジャケットは大きく、合わせるパンツもワイドシルエット。その身幅と丈のバランスが独特な存在感を持っている。そんなスタイルに差し込まれるのは、バルキーニットのアクセサリー。ニットの小さな帽子やグローブがアクセントとなって、よりレトロ感を強調していく。パネル柄のプリントコートやカーディガンのジャカード柄も、古着のような雰囲気。スタジャンの背中には馬の絵がのせられ、ブルゾンには魚釣りをする人たちのイラストが描かれる。英国の挿絵家ヒース・ロビンソンが着想源。ロビンソンの挿絵に、自身の「優れたデザインや豊かさは隠れたところにある」という考えを重ねて作った。ストーリー仕立てのコンセプチュアルな見せ方は、東京でショーをするブランドの中では稀有(けう)な存在。一点一点のピースに、もっとエッジが利いてくればより迫力も出る。

シンヤコヅカ(写真=加茂ヒロユキ)

 「バイアール」に招待されたトモコイズミ(小泉智貴)は、虎ノ門のホテルを舞台にレッドカーペットのショーをした。得意とするフリルをびっしりと飾ったドレスが次々と現れる。レッドカーペットにトレーンを引くドレスから、ミニドレスまで様々なドレスをフリルが彩る。ボリュームたっぷりの総フリルのドレスから、ヘムやショルダーに部分的なフリルを飾ったものまで、量感のコントラストで見せる。男性のパンツスーツも襟や側章がフリルになり、袖口からスパンコールのカフスをのぞかせる。トラックスーツのようなカジュアルなアイテムもフリルのケープを合わせてエレガントに変化させた。

トモコイズミ

(小笠原拓郎)

 初のショーを行ったハルノブムラタ(村田晴信)は、日常を切り取った写真家ジャック・アンリ・ラルティーグに着想を得て、現代女性の立ち居振る舞いを際立たせるシンプルなワードローブを見せた。コレクションに一貫するのは、体の動きを見据えて変化するフォルムの美しさ。ミニマルなノースリーブドレスは後ろ身頃を切り替え、重心を落として緩やかな膨らみを出すことで、しなやかなエレガンスを感じさせる。「上質な素材を使うことを強調するのではなく、人が着た姿やしぐさが美しく見えることを意識して設計している」と村田。量感のあるテーラードスタイルを軸に自立した女性像を表現しながらも、肩から滑り落ちたコートを抑えるしぐさを交えて、女性の素の表情を差し入れる。その動作を品よく両立させているのは、肩回りのきちんとした作りと素材のハリ、ドレープ感だ。ジャケットが肩からドロップしても、完全には落ち切らないテンションを保ち、心地よい余韻を残している。

ハルノブムラタ(写真=堀内智博)
ハルノブムラタ(写真=堀内智博)

(須田渉美)

 同様に初のショーを行ったヨーク(寺田典夫)は、これまで一緒に仕事をしたアーティストの作品をランウェーに並べ、男女のモデルを交えてアートを鑑賞するシーンを演出した。メンズのベーシックな日常着にコントラストを利かせるのは、大胆な色彩のテキスタイル。米国の画家クリフォード・スティルを着想源にしており、特徴の一つでもある引き裂かれる色彩をニットやジャカードの織りで表現する。差し色は、イエローや赤みの強いブラウン。一部の柄は、作品として壁面に展示し、アートをまとう感覚をスタイリングで見せた。女性のモデルは、レイヤード仕立てのトレンチコートをドレスのように着用し、シャンブレーのブルゾンや異素材を切り替えたカーディガンなどを重ね着する。「海外進出にあたって、コートやニットなどのアウターに専念した」と寺田。丁寧なカットや仕立ての良さを強みに、滑らかな輪郭で差異を際立たせる。

ヨーク(写真=加茂ヒロユキ)
ヨーク(写真=加茂ヒロユキ)

 ノントーキョー(市毛綾乃)は、下北沢に新設された商業施設の一角で、コレクションピースに特化したショーを見せた。市毛が探求してきた「ロマンチックギアー」を濃く表現したものだ。3配色のチュールを重ねた袖の付いたフーディードレス、プリントTシャツにギャザーを寄せた袖のアクサセリーやオーガンディのラッフルドレス。現代の日常着をベースに、軽やかさやボリュームを誇張した装飾を融合し、美少女戦士を思わせるスタイルを描く。マントのように着用するストールには、少女漫画「リボンの騎士」の王女サファイアのプリント。可愛らしさだけではない、心の強さを持つことへのメッセージを感じさせた。

ノントーキョー(写真=堀内智博)

〈デジタル〉

 22年秋冬デビューのメゾンシュンイシザワ(石澤駿)は、「ボンタンハンター」をテーマに、昭和時代のヤンキーに着目したデジタルショーを見せた。石澤の拠点、北海道・札幌市内の市場やレトロな居酒屋を背景にして人間味あるムードを表現した。リーゼント風の男性モデルは短ランや長ラン、ボンタンを着用した姿で登場する。とはいっても、使用する素材はデニム、肩線はドロップして身近さを感じるバランス。若いセンスで和の要素をコミカルに織り込み、虎や竜の刺繍も柔らかに施す。Gジャンの背中には、手先の器用さを生かし、直線縫いのミシンでだるまの刺繍を入れている。

メゾンシュンイシザワ

 ホウガ(石田萌)は、ザ・ドリーマーをテーマに、鏡の前で自分の存在を問いかける一人のバレリーナを通して表現した。ゆるゆるとした曲線やギャザーを寄せたボリュームシルエットに特徴を出す石田だが、手足をきれいに伸ばすバレリーナの体の動きを生かして、そのシルエットに弾むような軽やかさを表現する。ベルベットのドレスの肩には、曲線でカットアウトしたディテール。ギャザーやフリルの甘さだけでなく、そぎ落として余白を作るバランスで新鮮味を出した。

ホウガ

 セヴシグ(長野剛識)は、アダプタビリティー(適応力)をテーマに、人類も動物もウイルスもAIも共存し、適応して進化していくストーリーを描いた。老若男女のモデルが着用するのは、カラフルなワードローブ。鮮やかなグリーンのレザージャケットにパンツ。イエローのスタジアムジャンバーなど、カジュアルスタイルの定番と言われるアイテムを新たな手法で作り上げる。残革を焼却せずに土に埋めると分解されるゼオライトなめしを使用した国産の牛革、抗ウイルス、抗菌効果を持つシルク100%のダブルフェイスフリースなど、時代に応じたラグジュアリーな着心地を独自の視点で提案する。

セグシヴ

(須田渉美)



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