楽天ファッション・ウィーク21年秋冬 「ミスタージェントルマン」クリーンな配色のレイヤード

2021/03/19 06:26 更新


 楽天ファッション・ウィーク東京21年秋冬は、時代を超えた普遍性に向き合うデザイナーの姿勢が強く感じられるシーズンとなった。型にはまらない、身軽で伸びやかな感性を持って、年を経ても美しいと思える形を新たに作り上げる力は、持続可能性の根本ともいえる。そのためには、続ける意思の強さが欠かせない。

【関連記事】楽天ファッション・ウィーク21年秋冬 アートを背景にしたクリエイション〈デジタル〉

〈フィジカル〉

 真っ白な床にまばゆく輝く光の中で、ミスタージェントルマン(オオスミタケシ、吉井雄一)はクリーンな色のレイヤードスタイルを見せた。それは、1月末に逝去したオオスミタケシが吉井雄一とともにデザインした最後のコレクション。秋冬は、ミスタージェントルマンが得意とする解体したアイテムをパーツとしてレイヤードしていくデザインだ。シャツのスリーブパーツがニットベストにかぶせられ、パンツのウエストはまるでパンツを2枚重ねたようなディテールになる。デニムパンツは太ももまでのオーバーパンツを被せ、セーターはニットパーツを縦に3枚切り替える。そんなパーツのレイヤードや切り替えを生き生きと見せるのは、素材と色の重ね方。シアリングにキルティング、パテント、フリース、量感のメリハリにつるっとした光沢を混ぜていく。パープルやブラウン、ピンクにベージュ、優しい色のトーンに加わるPVC(ポリ塩化ビニル)の迷彩柄や箔(はく)の輝きがレイヤードに変化をつける。愛と平和を願うキーワードもグラフィックに落とし込んで、コーディネートの中にミニマルに潜ませた。

 フィナーレに1人で登場した吉井は、まるで隣にオオスミタケシがいるかのようにパートナーをたたえてあいさつした。これが2人の最後のクリエイションだと改めて気づく。ショー終了後、舞台に置かれた祭壇に、来場者たちは白いバラを捧げた。

ミスタージェントルマン

(小笠原拓郎)

 初参加のソワハ(廣川玉枝)は、「新時代の和装」をコンセプトに今秋冬からスタートするデザインプロジェクト。「ソマルタ」を手掛けている廣川が13年から取り組んできた考え方で、和服の文化を後世に残せるようブランドとして発展させていくものだ。重ね襟を取り入れた左前のカシュクール仕様に折り畳んだベルトのようなディテール。ショート丈のジャケットも重ねの手法が入って直線的なラインを描く。きものらしいたたずまいと立体変化のある女性らしいフォルム、重ねた色のエレガンスに憧れを感じる。ドレスは背中のファスナーで着脱でき、スカートの片側はプリーツを差し入れる。「現代の生活の動線に沿って動きやすさを配慮した作りで、日常に着用できる和服の世界を築きたい」と廣川。ドレスの一部は、京友禅の千總、岡重と協業し、かすみがかる春の山に桜が咲き誇る景色などを鮮明にプリントした生地を使ってアシンメトリーに見せた。

ソワハ

 バルムング(ハチ)は、作家の鈴木操による演出とともに、未来的なインスタレーションを見せた。黒いウェアを羽織ったモデルたちが、段ボールから真空パックのいびつな物体を取り出して積み重ね、宇宙空間のような舞台を作る。そこに登場するのは、直線の切り替えが入ったビッグシルエットのアウター、幾何学的な複数のパーツが重なったトップ、生命体のようなプリント柄のパンツ。これまでハチが作り上げてきた、生命力と機能性を感じさせるワードローブを、背景の空間や音楽に重ね合わせた。新鮮に感じるのは、ほんわりと寄り添うテクスチャー。スポーティーなブルゾンはシボの入った素材で柔らかなラインを出す。ライフガードのようなベストは、中わた素材がそのまま張り合わされ、ボアのように見える。会場は東神田のギャラリー。「こういうタイミングだから、小さく、距離の近い形でいいものを見せたいと取り組んだ」とハチ。

バルムング

 初参加のコンダクター(長嶺信太郎)は「ヴァルガーロマンス」をテーマに、男性らしさをむき出しにした力強いショーを見せた。舞台はホテルの地下の駐車場。胸元にタトゥーが入った男性モデルが着用するのは、レパード柄のフェイクファーコート。悪っぽい顔立ちのモデルは素肌に花柄レースのシャツをまとう。洋服にはフェミニンな要素もミックスされているが、俗っぽい風格のモデルを選んでいて、ジェンダーレスとは異なる野郎っぽさをストレートに出す。フィッシュネットタイツにブリーフを重ね着した男性モデルは、体格の良さからにじみ出る強さがパンキッシュ。

コンダクター

(須田渉美、写真=堀内智博、加茂ヒロユキ)



この記事に関連する記事