欧州から世界市場へ
欧州の有力テキスタイルメーカーに聞くと、プルミエール・ヴィジョン(PV)パリを商談の場と位置付ける企業は少ない。生地選定が早まっている欧州デザイナーブランドには、開催の2~3カ月前に訪問し、大方の受注を終えているからだ。それでもPVパリに出続ける意味は、来場者の74%がフランス以外という国際性の高さにある。なかなか訪問できない遠方客へのアプローチに重宝されている。
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■広域で販路開拓
PVによると、PVパリ20~21年秋冬の来場者数は5万6154人で、前年9月展から約1100人減った。特にブレグジット(英国の欧州連合離脱)への不安を受けた厳しい経済情勢、低迷が続くファッション消費を理由に挙げた。ロンドンとミラノ・コレクションの間の過密スケジュールの中での開催となったことも、客足に響いたと見ている。
ただ、来場者は136カ国・地域からと幅広く、前年9月展(124カ国・地域)から増えた。主力の仏や英国の来場者が減少した一方、アジアは中国を中心に増えており、全体の12%を占める人数になった。北米やトルコも増加した。
「PVパリが一番重要な素材見本市」と話すのは、伊テックスラバー。秋冬向けは既に、7月の独ミュンヘン・ファブリック・スタートのプレビュー展や伊ミラノウニカ(MU)に出展したほか、仏でもエージェントを介して9月初めまでに商談を済ませている。「PVパリの開催時期は少し遅い」という不満はあるものの、米国や中国、日本など遠方の既存客とのコミュニケーション、新規販路開拓の場として重きを置く。伊ポンテトルトも、「遠方の客に売るのに効率が良い」と話す。
刺繍加工のフェデリコ・アスペジは、一昨年からMUへの出展を再開したものの、「PVパリの方が重要と見ている」と話す。「仏以外にも、アジアやニュージーランドなど世界中から来場があるから」だ。MUも国際化が進んでいるが、「仏の方がバケーションを兼ねて遠方から来る顧客が多い」という。
スペインのグラタコスは、PVパリで販路を広げ、勢いをつけている生地メーカーだ。ミドルからハイエンドブランドに向け、ジャカード、プリント、レースを中心に毎シーズン300点の意匠素材を開発し、「世界中」に販路を持つ。欧州経済の低迷で多くの生地メーカーが売り上げを落とすなか、直近の決算で10%近く売上高を伸ばせたのは、「少数のブランドに頼らず、様々なブランドと接点を持ち、リスク回避できていること」が大きい。
かつては、欧州のトップブランドへの足がかりとして重視されたPVパリだが、今では欧州に限らず、米国、アジア、アフリカ、中東など世界中に生まれている新たな商機をつかむ場としても、重みを増している。
■見せ方も重要に
PVのBtoB(企業間取引)デジタルプラットフォーム「PVマーケットプレイス」も、出展者とバイヤーの接点をオンラインで構築し、新規開拓を支援する目的で始まった。高級服地産業は、対面で生地を前にコミュニケーションする文化が根付いてきたため、「その体質や商慣習をすぐに変えることは難しい」(ジル・ラスボルドPVゼネラルマネジャー)ものの、少しずつ利用が増えている。足元の売り上げにはつながっていないが、「将来は有力なツールになる」(テックスラバー)、「新規客からの問い合わせ」(グラタコス)に期待した先行投資だ。
マーケットプレイスの利用で一歩先を行く仏デボーは、「探しているものが判然としていないバイヤーには、マーケットプレイスは何の手助けにもならない。出展者はもっとウェブでの見せ方や切り口を考える必要がある」と注意する。フェデリコ・アスペジも、画像を刺繍やニードルパンチなどテクニック別に掲載するなど工夫し、自社の技術をアピールする。
(繊研新聞本紙19年10月1日付)