【産地中小企業が描く次の成長㊤】販路 短期的利益よりパートナー

2020/12/30 06:27 更新


 フォーマルシーンに向くシルク織物を主力としてきた行方工業は、展示会への出展を機に、物作りの軸足を〝一格上のカジュアル〟に移した。販路も、短期的な利益より、長く取り組める関係作りに重きを置き、今ではハイエンドカジュアルブランドが主要取引先の一つになっている。

自社の強みを生かす

 同社はシルク織物産地の山形県米沢市にある織物メーカー。1895年にきもの用の反物製造で創業し、現在はシルクやシルク交織の高密度先染めドビー織物を中心に手掛ける。従業員8人で、糸繰りから整経、製織を一貫して自社で行っている。

 戦後まもなく洋服地を生産するようになり、レディスフォーマルやプレタ向けに販売してきた。技術の蓄積と長年培ったノウハウを磨き、繊細なシルクを傷一つなく高密度に織り上げる。シルクの優雅さを前面に出した格調高い織物が同社の看板素材だった。

 しかし、展示会を通じ、アパレル企業の意見を直接聞くことが増え、自社の物作りとアパレル企業のニーズのずれを感じた。百貨店アパレルとの商談は、折り合わなくなっていた。カジュアル化が進み、気負わず着られる服に力を入れるブランドが増えていたからだ。冠婚葬祭のイメージが強いシルクは敬遠された。

 綿・ポリエステルなど、シルク以外の原料を使った織物も作ったが、好評は得ても、実商売にはつながりにくい。綿や合繊が得意な産地より高価になるためだ。密度を落としたり、シルクの混率を減らして価格を下げる努力もしたが、それは自社の競争力を失うことになる。

 米沢産地で作る意味や、自社の強みに向き合い、取引先のニーズ(マーケットイン)と、行方工業ならでは(プロダクトアウト)のバランスを模索した。「まだ答えが出たわけではない」が、シルクの品の良さを生かした〝一格上のカジュアル〟は、柱の一つになった。

チャレンジいとわず

 ワッシャー加工したり、経糸に綿を使ったりして、気負わず着られるシルクの開発に力を入れている。わずかなしわや傷一つも許されない以前の物作りからは、考えられなかったようなチャレンジもいとわない。

 「一歩間違えると価値がなくなる」ギリギリを攻め、シルクらしい品の良さとナチュラルの間をとった「上品なやんちゃ」が顧客から好評だ。ワッシャー加工は、シルクが敬遠される理由として最も多い洗濯時の収縮を改善し、扱いやすくなる利点もあった。

 21~22年秋冬向けには、絹紡糸を使った織物に起毛加工し、ソフトで温かみのある風合いにした。起毛加工場を新たに開拓して実現した。ウォッシャブル素材の強化やコーティングしてみたいなど開発意欲は尽きず、次の試作へ目を輝かせる。

加工場を開拓し、21〜22年秋冬向けで初めて起毛仕上げを提案

 同社の新たな素材にいち早く注目し、採用したのが、メンズを含むハイエンドカジュアルブランドだ。具体的な要望や相談を寄せてくれ、「新しい物作りのヒントになる」ことも魅力に感じた。取引も継続してくれる。

 今後は少量でも長く関係が築けるブランドを見つけたいとの思いから、10メートルからでも注文を受けるようになった。大手では相手にされない小さなブランドも「やってみないとわからない」と話を聞く。一人でやっているブランドでも、年間数百万円を買ってくれるところもあったという。一緒に新たなファッションやプロダクトを追求していける。そんなデザイナーブランドとの物作りに成長戦略を描く。

絹紡糸と綿の交織を起毛し、柔らかく温かみある風合いに

(繊研新聞本紙20年11月18日付)



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