【連載】進化するオムニチャネル-①

2018/12/29 06:30 更新


■EC軸に良質なコミュニティー作り

 ECを含めたウェブ戦略が、顧客と自社の課題解決ツール――繊研新聞社のネット販売アンケートに回答があった国内ファッションEC企業165社の17年度EC販売額の合計は9400億円を超え、前期比約15%増だった。昨年度に続き2ケタ伸び、全社売上高に占めるEC比率は10.8%となった。

 特徴的なのは、ECの増収企業が107社と65%を占め、2ケタ増収も75社と45%に達していること。消費者の商品・サービスの探索起点がネットとなったことと呼応し、ECシフトが業界全体に浸透した。一方、ネット上の商品・サービス情報が膨大になり、競合が強まったのも事実。商品をネットで購入できる環境にしただけでは、ECも全社業績も不安定になりつつある。今期からは「EC比率10%台を見据えた自社変革」に到達できるかが、成長に直結する。

(ネット取材班)

 前期のEC伸び率をEC売り上げ水準別にまとめたのが「表1」。16年度は各段階で伸び率が20%を上回ったが、これが各段階で10%台に落ち着いた。とはいえ、EC売上高1億2000万円以上で2ケタ成長を持続し、自社の成長には「EC強化が必須」という構図は不変だ。


柔軟な対応

 全社・EC両方で増収した企業は165社中56社(16年度は177社中54社)で、16年度より比率が高まった。EC売上高上位に絞った「表2」を見ると、ECが大きく成長した企業は全社売上高も増え、減収でも1~3%台の下げ幅にとどまった。

 16年度と17年度の2年連続でECが2ケタ増収した企業は45社もある。これらの成長企業は「変化の激しい客の要望、利便性にECで応える」ことに柔軟に臨み、ECが全社業績をけん引するステージに進んだといえる。

 ECの強化ポイントにも、多少の変化が見えた。アンケート結果では、今期に重視する施策として「物流改革」「ブランドコンテンツ作り」が16年度よりも順位が上がった。今後、EC競合がさらに進み、成長率も鈍化することが想定される。その中で、ECと実店舗の垣根をなくし、全社一体となって顧客のロイヤルティーを高める事業モデルの構築が必要となっているためだ。

 EC、実店舗、カタログといった各販路で同一サービスを行うのでなく、商品部を含めた社内コミュニケーション整備をこまめに行いながら、欲しい人や場所に商品情報と在庫を的確に届け、「顧客との関係性を深める」ことが重点となっている。

適材適所で

 成長企業に「いま重視しているKPI(重要業績評価指標)」を聞くと、ECの基本数値である「訪問客数」「購買率」「購買単価」を見据えながら、「リピート率」「アクティブユーザー数」「併用購買(ECと店などの併用)者数」を最重視している。購買客との接触時間・頻度の拡大につなげる=「アクティブ客の拡大」を強めている。

 特に実店舗やSNSでつながっている既存顧客と良好なコミュニケーションを深め、ブランド・商品・サービスを介した「良質なコミュニティー」の構築を進めている。

 具体的には、顧客の嗜好(しこう)と行動をデータで読み取り、個々の客に新商品・サービス・販促などの告知のアクションを、客のストレスなく行う。そのためには日・週・月単位のデータを読みながら、計画的な商品提案と販促計画の立案が必須。社内コミュニケーションの向上が求められている。

 「データを活用した需要予測」と「店舗スタッフを通じたロイヤルティー向上」の積極化も進んでいる。顧客の要望に迅速に対応するため、組織体制の整備と適材適所の人員配置、人事評価制度の改正を、素早く柔軟に行っている企業が増えた点も見逃せない。

(繊研新聞本紙 2018年10月24日付)



この記事に関連する記事

このカテゴリーでよく読まれている記事