23年春夏ニューヨーク・コレクション サステイナブル、包括性…問われるデザイナーの貢献と力量

2022/09/16 06:28 更新


 【ニューヨーク=杉本佳子通信員】ファッションデザイナーが社会を良くするため、多様な人々がより生きやすくなるため、地球を少しでも持続可能にするためにできることは何か。クリエイションで感動させつつ、長く着られる服を作ることは、サステイナブル(持続可能)に貢献する手段の一つだろう。トレンドを取り入れるなら、ブランドの立ち位置を見据えつつ、魅力的でオリジナリティーがあって市場性があることが重要だ。デザイナーの力量が、さまざまな角度から試されている。

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 ガブリエラ・ハーストは、ブルックリンの巨大な倉庫でショーを行った。ハーストはこの春、ゴールドと黒のコラージュをつくった。その後ニューヨーク郊外の現代美術館、ディア・ビーコンでイミ・クネーベルの作品に類似するイメージを見いだし、今シーズンのベースとした。加えて、古代ギリシャの女性詩人、サッポーの詩を読み、サッポーが女性のために成し遂げた功績に感銘を受けたという。そうした流れから、女性及びノンバイナリー(自分の性認識に男性か女性かという枠組みを当てはめようとしない人)の歌手で構成されたレジスタンス・リバイバル・コーラスを起用。ゴスペルソング「この喜び」の熱唱が響きわたる中、ショーを行った。

  黒のドレスにかぶせたゴールドの彫刻のようなパーツは、2種類のレザーを合わせ、水につけ、ドレープを作り、端を切りっぱなしにしたという。黒とゴールドの組み合わせは、さまざまなデザインで登場する。ゴールドの義足をつけたモデルまで登場した。今シーズンを象徴するモチーフは渦巻き。リブニットを部分的にねじったり、リブニットのドレスのウエストにマルチカラーのクロシェをはめ込んだり。渦巻き模様を全体に入れたクロシェのロングドレスは、ハーストらしい迫力がある。ハーストは、デッドストック使用率35%、エコフレンドリー率50%であることも発表した。毎シーズンこの数字が増えていくことを示せたら、それもファッションデザイナーの新しい在り方と言えるだろう。

ガブリエラ・ハースト
ガブリエラ・ハースト
ガブリエラ・ハースト
ガブリエラ・ハースト

 マイケル・コースの会場には、トロピカルなグリーンがいっぱい。ラテン気分のアコースティックギターの生演奏が、リゾート気分を誘う。そこで見せたのは、カッティングが非常に美しい、シンプルでエレガントな服。主役はテーラーカラーのジャケットだが、素肌に羽織らせてリラックスしたラグジュアリーな世界を示す。ラップスカートのカッティング、ホールターネックあるいはワンショルダーのドレスも官能的で美しい。パンツはワイドレッグで、流れるようなシルエットを描く。風をはらむカフタン、長いフリンジでしなやかな動きも加えた。目を引くのはDカンをアレンジしたようなゴールドのバックル付きベルト。同じバックルをワンショルダーの肩にも使う。テーマは「アーバンリゾート」。高級リゾート地でドレスアップして非日常を楽しむ時にも、都会のオケージョンでも通用しそう。カッティングが美しくシンプルでタイムレスな服は、サステイナブル。それを示したショーだったとも言える。

マイケル・コース
マイケル・コース

 久しぶりにショーを行ったヴィヴィアン・タムは、自分のルーツに関連付けつつ、がらりとイメージチェンジした。Z世代に向けて完全にかじを切り、ジェンダーレスを十分意識している。レトロなピクセルアートや麻雀などゲーミングのモチーフ、NFT(非代替性トークン)コレクションの「ボアードエイプ」(猿をモチーフにしたアバターのイラスト作品)をふんだんに入れながら、キュートな服にまとめた。男性モデルも多く登場したが、女性でも着られそうな可愛らしさがある。モチーフは刺繍、プリント、アップリケ、クロシェで表現。アイテムはミニドレス、ブラトップ、チュニック、膝から裾にかけて極端に広がるパンツ、ホワイトデニムをリメイクしたようなベスト、ベアショルダーのロングドレスなどバリエーションが豊富で楽しい。

ヴィヴィアン・タム
ヴィヴィアン・タム

 トリー・バーチも、ボディーにフォーカスしたアイテムを並べた。羽根のように薄いジャージーで仕立てたスキンタイトのトップは、下につけたブラジャーを透けて見せる。脚が透けて見えるシフォンのスカートを合わせ、ジャージーのバンドゥーでウエストをソフトに強調する。上に羽織るコートは、強い光沢を放つサテン、または箔押ししたゴールドのレザーで仕立てる。バーチは「自由な実験」と呼び、「今モダンに感じている要素を反映させた」と語るが、従来のレディーライクな路線を考えたら、ちょっとトレンドをストレートに取り入れ過ぎた感がある。顧客にどう受け入れられるのか、興味深い。

トリー・バーチ

 アクンヴァスは、イーストビレッジの人気レストラン「インドシン」で初のショーを行った。着想源は「月に憑(つ)かれたピエロ」。デザイナーのクリスチャン・ジュール・ニールセンは、編地の変化と立体感のあるラッフルで遊んだ服、そしてきれいな色選びが得意で、その強みを披露したデビューショーになった。肌を露出するディテールは多いが、楽しくて品がある仕上がりになっている。

アクンヴァス

 タダシ・ショージは動画で発表した。きれいな色をのせた優しくフェミニンで軽やかなドレスが、穏やかでポジティブなムードをつくる。透ける素材が多く取り入れて、タダシ・ショージらしく上品に仕上げた。バイアスにカットして重ねた細長いシフォンの布端が風に揺れるさまも控えめで愛らしい。

タダシ・ショージ

(写真=各社提供)

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