今年の全米小売業大会では、人とのつながりと実店舗の重要性に改めて目が向けられた。
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レント・ザ・ランウェーの創業者兼CEO(最高経営責任者)のジェニファー・ハイマン氏は、「私は実は、伝統的な小売店における経験が今までになく重要になっていると思っている。オーセンティックなブランド経験ができるのは実店舗だけ。店での顧客経験は計測できないと言われてきたが、たくさんの計測不可能な経験を持っているブランドがベストなブランドだと思う」と語った。
シャーロット(ノースカロライナ州)とロサンゼルスにオフィスを持つ戦略&デザインコンサルティング会社のショック・ケリーのプリンシプル兼共同創業者、ケビン・ケリー氏は、「私たちは最低価格でモノを手に入れるために努力するが、それが実現した後には別のニーズが出てくる。喜び、楽しみ、驚き、社交、幸せを求める気持ちだ。オンラインは価格においては優位かもしれないが、人間としての喜びがそこでしか得られないわけではない。人間は社会の中で協力的な生き物であるために、感情を満たされる必要がある」と語った。
ケリー氏は環境が行動と意思決定に影響を及ぼすとし、棚や商品の置き方を変えただけで売り上げが上がった例を複数紹介した。「男性経営者はとかく感情を軽視しがちだが、我々は皆感情を持っているし、それはあらゆる瞬間に呼び起こされる。お客が店に入ってきたら、税金や政治のことなど忘れてしまうような環境を作るべき。映画監督だったら、お客に光熱費や税金、政治のことを忘れさせて映画に没頭させるのが仕事。人々が気付いていなかったストーリーに誘い込むことが、私たちがやるべき仕事」と語る。
ケリー氏は「たき火効果」も指摘した。つまり他人が集い、つながりを感じられるコミュニティーの形成だ。その好例として、ロサンゼルスにあるショッピングセンターの「グローブ」を挙げた。客は買い物に来るというより、コミュニティーの一体感を楽しむために来ているという。
ショッピングセンターの駐車場はとかく暗く殺風景で、店に着くまでの道も整備されていないことがあるが、ケリー氏は「もっと注意が払われていい。どこへ行っても、足がその場所を好きかどうかを決めている。壊れた石畳の上を歩き、薄暗い場所を通過しなければならないとしたら、それは改善しないといけない」と指摘した。
さらに、「ブランドとして自分たちの考えをオープンに伝えることがより魅力を生み出す。多くの経営者は顧客に自分の個人的な思いを伝えることを恐れているが、実はそれこそが最も重要」とする。
イリノイ州のあるスーパーマーケットは、大手全国チェーンとECに圧倒され、苦戦していた。ケリー氏は、そのスーパーのオーナーが店では笑ったことがなかったのに、自分の牧場では農作物や牛の幸せ、おいしい牛肉の話を笑顔を見せながら話すことに気付き、農場に関するコンテンツを入れた新ブランドを作ることを勧めた。ケリー氏によると、非常に人気が出てニューヨークのハドソンヤードから誘致の話がきたが、既存の市場だけで忙しいと参入しなかったという。
カナダのスーパーも同様の状況で、オーナーの家にあった食品貯蔵室にオーナーの個人的信念を感じ、同様の食品貯蔵室を店内に作ったところ、大成功したそうだ。
(ニューヨーク=杉本佳子通信員)