《ニュース2016》根強い節約志向

2016/12/29 15:57 更新


為替の変動と価格設定


 円安に伴う調達コスト上昇と、消費者の生活防衛意識の高まり--。その狭間で価格をどう設定するかが、問われた1年だった。前年までの円安を受け、15年に多くの小売業やブランドが値上げに踏み切った。だが結果は惨敗で、各社ともその後、直ちに値下げを強いられた。

値下げ効果で増収増益

 ユニクロは上期(15年9月~16年2月)、国内事業の営業利益が3割近く減った。ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は秋冬のユニクロの不振について「(価格要因は)大きかった」と認め、16年春から価格を再び見直した。値下げの効果は大きく、ユニクロの下期(3~8月)は増収増益に転じた。「1・5倍の円安になれば同じ価格を維持することは出来なかった。だが、お客様の生活防衛意識が強く、値上げではなく、買いやすい価格にすることが必要だった」。通期(16年8月期)決算発表で柳井会長は円安が商品調達に与えた影響と消費者の低価格志向の強さについてこう語った。

 11、12年に1ドル=80円台だった為替は、15年には120円台になった。アパレルの97%が輸入の日本市場で、円安は避け難い価格の押し上げ要因だ。だが、景気回復の実感に乏しい消費者は値上げを受け入れなかった。その姿勢は、中間価格以上の商品を販売する小売業の業績にも影響を与えた。

 ユナイテッドアローズは、調達コスト上昇を理由に14年度に一部商品を値上げしたが、それが顧客に受け入れられず、15年3月期は減益を強いられた。翌年は再び価格抑制にかじを切ったが、今度は原価率抑制が追いつかず、16年3月期も営業、経常段階で減益となった。

左右されない仕組みを

 同社は目下、商品調達の仕組みを見直している。オリジナルは販売までのリードタイムが長いASEAN(東南アジア諸国連合)では、売れ筋変化に対応できないため、中国などを軸に店頭の状況に即応できる仕組みを作っている。仕入れ商品でも卸売業者と交渉し、原価率抑制に取り組んでいる。

 今年半ばまでに見られた業界の価格抑制努力を後押しするかのように、為替レートは4月以降、1ドル=110円を切る水準まで円高が進んだ。財布のひもが堅くなった消費者にとって買いやすい価格を実現するためには格好の追い風だったが、それも10月まで。11月からは再び為替は円安に振れつつある。

 消費者が値上げを受け入れられる経済状況にない以上、当面は各社とも価格抑制を続けるしかない。ただ、目先の施策とは別に、為替変動に可能な限り影響を受けない商品調達の仕組みの構築、あるいは、値上げしても消費者が買い続ける価値を持つ商品を作り、提案する努力が、これまで以上にファッション企業には求められている。



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