EC急成長、百貨店売上高上回る
16年は国内ファッション産業でECが急速に拡大・浸透した。世界的に見て、IT(情報技術)企業が既存ビジネスモデル企業の成長を追い越しつつある今、国内ファッションでもその予兆が出始めてきたといって過言でない。企業の大小による優劣を覆すパラダイムシフトが起こり得る可能性もある。
推定30%増の大幅伸び
本社が9月に発表した15年度の消費者向けファッションEC市場規模は約7250億円(14年度5600億円)、国内ファッション市場に占めるEC比率は7・8%(同6・1%)と、大幅な伸長となった。売上高で約30%もの伸びという推定に、大手アパレル企業幹部は「想定はできる。われわれもEC強化に今以上に注力したい」と話した。
流通業でも逆転が起こった。日本通信販売協会が発表した15年度(15年4月~16年3月)の通信販売売上高(衣食住など含む)は6兆5100億円(前年度比5・9%増)で、全国百貨店の15年売上高6兆1742億円を上回った。楽天、アマゾン、ゾゾタウンなどECモールがけん引し、実店舗を持つ小売業もECを強化しているためだ。
消費者がECに流れるのは、もはや利便性だけではない。多くの人々がスマートフォンを持ち、朝起きて最初に操作し、昼夜問わず関心のあるコト・モノを検索し、最適な情報との出合いを求めている。
国内の経済成長が鈍化し、すでにモノをたくさん持っていて、無駄な出費を控えたい消費者が、買い物に求めるのが「有益な情報の取得」と「自分を理解してくれる最適コミュニケーション」だ。こういった客と頻度多く良質なコミュニケーションを取り、客が自然と自社のECや店舗に来訪してくれる環境作りが、より重要になっている。
自社が提供する「商品」「情報」「サービス」で、価値あるものを販売して客の悩みやニーズに応えつつ、適確・適時な商品情報提供で客の信頼と安心を得ること、そしてきめ細かいサービスでリピーター化することが重要になった。
企業価値を生むデータ
企業にとって、ECは有益なデータと変革要素をもたらす。消費者が検索し、友人・知人とコミュニケーションした履歴は、人々の関心度を表す統計データになる。すでに世界のIT先進企業は、集めたデータを分析して、複雑化する消費者ニーズを読み取り、それを基に企画・提案のPDCA(計画・実行・検証・修正)サイクルを回し、一気に既存のビジネスモデル企業を上回る企業価値を生み出している。
客のニーズは瞬時に発生し、変化し、かつ厳しい選択眼で企業や商品を選別する。それに対して「素早く判断・決断」することが企業に求められている。「データが共有され、意思決定が早い」組織への変革が、高い競争力につながる。すでに一部のファッション企業から「客の支持の基準が、もはや企業の大小とは関係なくなってきている」という声が出ている。17年は国内ファッション市場でパラダイムシフトが一気に起こるのか、注視したい。