今日から連載するのは、架空の百貨店インショップ「ルクリア」の店長、麻紀の成長の物語。
ディスプレーや、イベントごとのテーマの打ち出しに奮闘する麻紀の様子を通じて、お客を引き付けるVMDが楽しく学べます。
(作:松井柚子、画:住田葉子、監修:武永昭光ショーアンドテル代表)
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駅直結のファッションビルに店を構えていたショップ「ルクリア」が、百貨店に初出店してから一年半が経った。ルクリアが入っている南城百貨店は、20代後半から30代の働く女性を取り込むために大規模な改装をした。その際に婦人服のブランドを見直し、ルクリアを導入することになったのだ。ターゲットのニーズと合ったMDの再編で改装は成功し、業績も予算を大きく上回る成果が出ている。
ルクリア南城店は新人だった麻紀が店長に抜擢されたのだが、売り上げは順調に伸びている。
それまで麻紀の上司であった元店長の瞳は本社勤務になり、スーパーバイザーとして統括地区の売り場を見回り、店頭のスタッフへの指導を任されている。
麻紀が瞳のもとで働いていたころは、自分の店のスタッフだけで自由にやってきたので、南城百貨店に来てからは、窮屈に感じることも多かった。マネジャーや部長のダメ出しがたびたび入るのだ。
「憂鬱だなあ…」麻紀が言った。
「明日は店長会議ですもんね」。麻紀を支える副店長の美穂だ。美穂はとても落ち着いた雰囲気がある。
「これから瞳さんに電話するから、売り場をお願いね」
明日は各ショップの店長が、部長やマネジャーに売り上げ報告などを行う定例会議の日で、来月のテーマを発表しなくてはならない。
ルクリアのフロアの大谷マネジャーは、以前はVMDを担当していたらしい。そのせいかVMDの原則はもちろん、「今、何を売りたいのか」「どのようなテーマを打ち出しているのか」など、どのような考えのもと売り場を作っているのか、かなり深く追及されることもしばしばだった。
例えば売り場を見て回る際に、ディスプレー商品が近くに展開されているか、つまりお客様がディスプレーを見て「欲しい」と思った時に、すぐに手に取ることができる場所にあるかを常々チェックされる。
麻紀の記憶に新しいのは、展開の仕方を指摘された時のことだ。その時、ルクリアの売り場では、商品をアイテム別に展開していた。ホワイトデニムをディスプレーで見せていたので、そばのラックにそれをかけていたのだが、離れた所にも他の型のホワイトデニムを置いていた。
大谷マネジャーは麻紀に、2カ所に分かれている理由と、どのような展開分類で売り場を作っているのか尋ねた。麻紀は、「アイテム別に展開しているのだから、1カ所にまとめるべきだった」と、大谷の質問によって気付いた。
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来月は、フロア全体でファッショントレンドの「マスキュリン」をテーマにして各ショップがそれにあてはまる商品を打ち出すことになっている。大谷マネジャーの方針は、いつも共通のテーマを設定し、各ショップでさらに細かいテーマの設定をさせていた。今回の会議ではそれを発表するのだ。
※この物語はフィクションです。実際のショップ、人物とは一切関係ありません。
(繊研新聞2013年に販売・リテイリスト支援のぺージに掲載されたものを元に編集しています)