《私のビジネス日記帳》コロナが変えた従業員の「共創」環境 山口俊比古

2022/11/30 06:25 更新


 社長に就任して7日目だった。20年4月7日、新型コロナの感染拡大による最初の緊急事態宣言が発出、当社の店舗は翌8日から食品売り場を除いて休業した。

 食品売り場の社員は、見えない敵と戦いながら店頭に立ち、後方スタッフも支援に回った。一方、非食品売り場の社員は自宅待機で、孤独感やもどかしさを覚えたという。入社直後の新入社員の不安もいかばかりだったか…。

 混沌(こんとん)とする状況下で当社が打った手は、全社員へのスマートフォンの配布だった。動画などを通して当社のビジョンや価値観を示し、浸透させると同時に、フィードバックを得る工夫もした。タテとヨコを問わず、社内の情報共有が劇的に進化した。また、お客様に対してもデジタルを介した提案や交流が活発になり、業績にも成果が表れはじめている。

 しかし、私が日頃から社員に伝えるのは、デジタルは手段に過ぎないということ。「リアル」のコミュニケーションに勝るものはない。私もできる限り店へ足を延ばし、顔を見てねぎらい、「お客様のお役に立つこと」の大切さを説き、困り事も含む「生の声」を吸い上げるよう努めている。

 当社は9月に本社を移転した。新オフィスにはビジョン志向の働き方を目指し、部門を超えたコミュニケーションや共創を図る空間を設けた。先日、新入社員とのトークセッションを行った。ビジョンに基づく「自分の働き方」を模索し実行しだした彼らは、春よりもひと回り大きく見えた。

(阪急阪神百貨店社長)

「私のビジネス日記帳」はファッションビジネス業界を代表する経営者・著名人に執筆いただいているコラムです。

関連キーワード私のビジネス日記帳



この記事に関連する記事