次世代支援のファッション大賞(若月美奈)

2016/11/08 17:51 更新


めずらしく残暑が長引き10月に入っても半袖の人々を見かけたロンドンも、秋を乗り越えて一気に冬に突入。ウールコートやダウンジャケット姿の人々が街を行き交っている。

10月の最終日曜日にはサマータイムも終わり、夕方4時には暗くなり始めると年末気分がどっと漂う。

 ロンドンファッション界で年末といえば、恒例の英国ファッション大賞の受賞式。年々規模が大きくなり、近くの道路を交通止めしてドレスアップした著名人がレッドカーペットを通って会場入りする様子は、映画祭にも負けない華やかさ。

ロンドン・コレクションに参加するデザイナーはもちろん、著名インターナショナルデザイナー、セレブ、ジャーナリスト、PR関係者、モデルなどなどが一堂に集まる。

言ってみれば、英国ファッション界の忘年会のようなイベントである。チケットは一般にも販売され、「ブラックタイ」のドレスコードで2000人が会場を埋める。


  
昨年の英国ファッションン大賞授賞式のレッドカーペットにて。今年のインベントアンバサダーを務めるモデルのカーリー・クロス

 

そのファッション大賞が今年からインターナショナルイベントとして新体制になり、規模を広げて12月5日に開催される。名称は「英国」の文字が消え、ずばり「The Fashion Awards 2016 (2016年ファッション大賞)」。

場所はロンドンを代表する劇場、ロイヤル・アルバート・ホールで、昨年の2倍の4000人の来場を予定している。

このほど、その各賞候補者の発表イベントが行われた。場所はテムズ川沿いのホテルの映画室。動画による発表だ。

会場には主催者である英国ファッション協会(BFC)のPR担当者はいるものの、ナタリー・マセネット会長もキャロライン・ラッシュCEOも、そしてスポンサーのスワロフスキーのナジャ・スワロフスキー取締役もいない。

映像はラッシュCEOの挨拶の映像からスタートし、プレス発表映像へと移った。そう、前述の首脳陣やイベントのアンバサダーを務めるモデルのカーリー・クロスなどは皆ロサンジェルスにいたのだ。

今回の発表はインターナショナルイベントであることをアピールするためロサンジェルスを拠点に行われ、デジタルを通じてロンドンでも同時に発表という形となったわけだ。

こちらがその発表映像。最後に全候補者の名前が記されている。


 世界41か国1500人のファッション関係者の投票によって選ばれたのは9部門各5名(あるいは5ブランド)。ブリティッシュ・デザイナー・オブ・ザ・イヤーはレディスとメンズに分かれ、昨年ダブル受賞したジョナサン・アンダーソン(J.W.アンダーソン)をはじめ、早くもレディスではシモーネ・ロシャ、メンズではクレイグ・グリーンの名前がある。

インターナショナル・レディ・トゥ・ウエア・デザイナーにはグッチのアレッサンドロ・ミケーレ、バレンシアガのデムナ・ヴァザリアらと共に、再びジョナサン・アンダーソン(ロエベ)が登場。

インターナショナル・ビジネス・リーダーには、コムデギャルソンとドーバーストリートマーケットのエイドリアン・ジョフィ社長もいる。

 ところで、大切なことをまだ紹介していなかった。

今年からこのイベントは「BFCエデュケーションファンデーション」の資金集めを目的としたチャリティーイベントとして行われる。これは、才能や意欲があってもファッションの高等教育を受けるお金のない学生たちに奨学金を授与するチャリティー。ファッション大賞の収益全額がこのチャリティーに回され、10年間で1000万ポンドの資金調達を目標としている。

ステラ・マッカートニーらが学んだ25年前のセントラル・セントマーチン美術大学の英国人学生の1年間の授業料は300〜400ポンドと外国人留学生の15分の1程度だった。当時の為替レートで5、6万円程度といったところだろうか。

ところがその後、EU内からの留学生も英国人と同じ金額となり、インフレも進んで年々高騰。現在はEU外留学生の1万7000ポンドよりは安いとはいえ9000ポンドもかかる。ボンドの下落で日本円にするとぐっと安く感じる現在の為替レートでも120万円程度だ。

若手デザイナーの支援だけでなく、その卵の段階から支援するというBFCの姿勢は、ロンドン・コレクションが新人デザイナーのふ化装置として機能する英国らしい一面。

ちなみに、イベントのチケットは寄付を目的とした750ポンドや2000ポンドのボックス席は発売中だが、70ポンドと48ポンドの2種類がある一般客チケットはすでに完売している。



あっと気がつけば、ロンドン在住が人生の半分を超してしまった。もっとも、まだ知らなかった昔ながらの英国、突如登場した新しい英国との出会いに、驚きや共感、失望を繰り返す日々は20ウン年前の来英時と変らない。そんな新米気分の発見をランダムに紹介します。繊研新聞ロンドン通信員



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