三越伊勢丹のVR(仮想現実)アプリ「レヴワールズ」は、百貨店が常設するバーチャル空間として異彩を放っている。世代を問わずアクセスされ、単なるショールーム機能にとどまらない、人々が集まる場として機能している。
社内起業制度で若手社員が企画し、21年3月に開設した。アプリ内の仮想の伊勢丹新宿本店から、連携しているECサイトに遷移し、実際の商品を買うことができる。販売商品はファッション、化粧品、食品など415ブランド、1250点を超える。
仮想も編集力が魅力
商品ごとのアクセスの多さは、実店舗の傾向と連動しており、特に食品が目立つ。スイーツや総菜、ギフト商品など百貨店ならではの商品を揃えている。「買う商品を決めている時にはECサイトだけで十分。レヴワールズのユーザーは、デパ地下というブランディングに魅力を感じ、ぶらぶら見て回ることを楽しんでいる」と、動機も実店舗に共通すると分析する。
開発・運営を担当する部署は12人の精鋭チームだ。アプリの基盤となるプログラムは外注しているが、CG制作は内製化。社員が出品ブランドと商談しながら、要望に応じてディスプレーなど見せ方を工夫することができるからだ。「メタバース(インターネット上の仮想空間)にはまだ正解がないので、ブランドから中長期の視点で話を聞く」制作体制をとっている。
コミュニケーションの場
同アプリをユーザーとの接点と捉える際、購買以上に、ユーザーの体験そのものを重視しているという。ユーザーから好評だったのが、アバターのクオリティーと、店舗の音楽演出だ。店舗や商品に加え、アバターや街並みまで視覚・聴覚で総合的に作りこみ、まさしくメタバースとして買い物も含め生活の一部として過ごすことを志向する。
ユーザー層は子供から80代といった高齢者まで男女とも幅広い。なかでもアクセス頻度が高いのは小中学生と見る。友人と会ったり、新たなブースを探検したりと遊び場となっているようだ。トヨタのブースでは小学生と大学生が遠隔で車について話すなど、「初対面の相手とお客同士で商品からコミュニケーションが生まれている」とコミュニケーションに可能性を見いだす。
クリスマスなどリアル催事との連動や、マンガ作品との協業などイベント企画でも、同時にアクセスした人々が集まったことで盛り上がった。
幅広いユーザーに使われるために、使いやすいUI(ユーザーインターフェイス)のデザインを心掛けた。スマートフォンを片手で操作しやすい縦画面で、ボタンの位置はスマホを持った手の親指が届く配置で極力減らした。商品のお気に入り登録機能や商品概要のアプリ内表示など、アプリ内での行動をスムーズに続けられるよう、操作においてもクリック数や外部への遷移を少なくしている。
今後は、「商品ラインナップを増やすのではなく、体験価値を上げたい」として、コミュニケーションに関わる機能を強化する。既にアバターのカスタマイズ、移動、文字チャット、ボイスチャット、エモートなど一般的な機能は網羅しているが、さらに、①アバターの重ね着を志向するデジタルウェア機能②アクセスボーナスなどゲーム的なUX(ユーザーエクスペリエンス)デザインの強化を目指す。