医療やヘルスケア、スポーツといった分野でウェアラブル技術を活用した事業開発が加速している。個々人のバイタルデータを取得できる技術として、プラットフォーマーと呼ばれるIT大手も注目する領域だ。「日本が世界で圧倒的に先へ進んでいる数少ない領域」と強調するウェアラブルIoT(モノのインターネット)製品メーカー、ミツフジ(京都府精華町)の三寺歩社長に、今と未来を聞いた。
(小堀真嗣)
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圧倒的な日本
ウェアラブルは日本が圧倒的に先へ進んでいて、世界で戦える数少ない領域なのに、その割に投資が集まっていない分野です。なぜかと言うと、成功モデルが確立できていないから。お金を出してもリスクがあると思われています。そのため、「新規投資はしないといけないが、失敗はしたくない」「うまくいった事例があればやってみよう」という企業が多い。
一方で、米グーグルを傘下に持つアルファベットが、ブレスレット型のウェアラブル端末で知られる米フィットビットを買収したような巨大な流れがウェアラブルの領域にも押し寄せている。ウェアラブルの市場は確実に成立し、大きくなっていくと考えています。これまでは時計型やブレスレット型か、衣服型かなどという議論がありましたが、状況やライフスタイルに応じて服を着たり、時計を着けたりして、自分の生体情報を取り、クラウド上でアプリなどのソフトを使ってサービスを利用するという形になると思います。
限られたツールの中から選ばないといけない状況から、様々な選択肢の中から自分に合ったツールを選べるようになるということは、ウェアラブルがちゃんとファッションになるのでは。ウェアラブル技術とデータ解析の高度化によって、徐々に「普通に着るよね」という世界になるんじゃないでしょうか。もはや、市場があるかないかの議論をしている人はいません。ユートピアみたいに「何億着の市場」という規模ではないですが、数百万着くらいの規模で着々と伸びていくと見ています。
社会課題の解決に
繊維・アパレル業界にもウェアラブルの領域に挑戦しようという会社はいます。大企業も含めて複数社あります。来年は大企業が何社も参入し、市場の景色は大きく変わると思っています。さらに、来年は〝コンシューマー元年〟になるはず。僕たちも一般の消費者に向けた商品を出します。ウェアラブル商品は、必要な人とそうでない人がはっきりしています。必要な人たちにどのようにアプローチをすればいいかが見えてきて、僕たちの中で答えが出てきました。
20年1月には子供服メーカーのキムラタンさんがウェアラブルに参入し、保育園児の見守りサービスを開始すると発表しました。子供向けの市場は間違いなく伸びると思います。
0歳児は突然亡くなることがあります。それがどれほど強烈なことか。親だったらそんなことは絶対に避けたい。保育士さんだって、そんな場面は絶対に見たくない。親は全財産をかけてでも助けてほしいと思うでしょう。また、「道路の真ん中で発作によって倒れたら車にひかれた」などという不慮の事故もある。今、ウェアラブル技術で体調の変化を未然に検知し、こうした事故を技術的に解決できる時代が来ました。
僕たちはこれまで、社会課題の解決に役立つこと、この1点だけを目指してきました。ミツフジはその先頭で、こうした社会課題を解決できるちゃんとした商品を世の中に出していきます。この次は、心臓に不安がある人などウェアラブル製品やサービスが必要だと考えられる方々が手に入れやすい購入環境を整えることが大事なステップで、実現しないといけません。
(繊研新聞本紙19年12月24日付)