《めてみみ》小さき国の財産

2025/04/11 06:24 更新


 「まことに小さな国が、開花期をむかえようとしている」。日露戦争を舞台にした司馬遼太郎の小説『坂の上の雲』の書き出しである。欧米から見れば徒手空拳に近い農業国だった日本を、いかに列強に負けない国にしていくのか、という明治の人々の気概が伝わってくる小説だ。

 当時、日本で外貨を獲得できる商品といえば生糸やお茶ぐらい。それでも懸命に海外で評価される商品を探した。日本が万国博覧会に初参加した150年余り前のパリ万博では、日本の伝統を生かした美術品や工芸品が数多く出品され、やがてジャポニスムが大きなうねりとなった。

 時を超えて、いよいよ大阪・関西万博が開幕する。オフィシャルショップの一つが、大丸松坂屋百貨店。店舗のコンセプトを「元禄時代の大店(おおたな)」とし、伝統工芸を生かした内装や商品を揃える。ただ、商品だけでなく「スタッフの知識の豊富さ、動き方にも注目してほしい」と強調する。

 バックヤードから売り場に出入りする時にはアルバイトを含めた従業員がお辞儀を徹底する。日本の店舗では当たり前の風景が、海外から訪れる人にはどう映るのだろうか。歴史の中で培ってきたおもてなしの心、細やかな心遣いや所作…。どんな巨大な建造物や先端技術にも引けを取らない、〝まことに小さな国〟が大いに誇れる財産だ。 



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