《めてみみ》見直されるビスポーク

2024/05/24 06:24 更新


 90年代後半に海外でスーツをあつらえたことがある。いわゆるビスポークのオーダースーツだ。ミラノとナポリで数着ずつ、春夏用にはアイリッシュリネン地で、秋冬用にはピンストライプやサキソニーで仕立てた。当時のイタリアの通貨はリラで円が強かったこともあり、1着30万円くらいでできた。リラからユーロに代わって価格も跳ね上がった。

 ビスポークの魅力といえば、なんといってもフィット感だ。体に沿って包み込むような着心地、肩でホールドしてはまるようになじむ気分は、既製服だとほぼ味わえない。採寸の仕方も仕立て屋によって異なり、付属の使い方や分量にもそれぞれのこだわりがある。その仕立て屋の持ち味、伝統を楽しみながら、リクエストを伝えて自分流のスタイルを作るのが楽しい。

 最近になって、サステイナブルの側面からビスポークが見直されている。たいていの仕立て屋はサイズの変化に伴う補修を請け負うので、体形が変わっても長く付き合える。メイド・トゥ・オーダーだから過剰な製品在庫を持つこともないビジネスでもある。

 ロンドン・ファッションウィークのイベントで一度、チャールズ国王(当時皇太子)にあいさつする機会があった。「素敵な靴ですね」と伝えると「そこにあるジョン・ロブだよ」との言葉。丁寧な補修の跡がある年代物のビスポークだった。



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