《めてみみ》全方良し

2021/10/20 06:24 更新


 「三方良し」は、売り手と買い手、そして社会の三者が満足することが何よりも大事という商売上の教え。類似の言葉は古くからあったようだが、近世になって滋賀の近江商人が広めたというのが定説。伊藤忠商事の創業者、伊藤忠兵衛氏が先達に対する尊敬の思いを込めて語った言葉がルーツとも言われている。

 売り手と買い手だけなら、相対した商談の中で問題を解決できるが、最後の社会貢献というのが一番難しい。社会と一口に言っても、多種多様な構成員が存在する。広い意味では、競合相手の企業も社会に含まれてくる。

 CSR(企業の社会的責任)やサステイナビリティー(持続可能性)などが、経営の根幹に関わる問題になってきたが、考えてみれば、いずれも三方良しにつながってくる。昔から日本人は、社会や地域との協調を大切にしてきたのだと改めて思う。

 中小企業も、地元と密着した新しいプロジェクトを加速し始めた。地域資源を活用し地元の活性化につなげようと奮闘している経営者に取材した際、「地元行政、政治家、地域の有力者……。三方どころか、六方、八方、ありとあらゆる方角に目配りしないと駄目なんですよ」と苦笑していた。あちこちとの折衝に走り回るしんどい仕事が続くが、こうしたきめ細かい目配りができることも中小企業の強みである。



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