《めてみみ》横の道、別の道

2020/06/10 06:24 更新


 不透明感が広がるなか、企業のトップから「選択と集中」という言葉が再び聞かれるようになった。これはオーストリアの経営学者であるピーター・ドラッカーが提唱、80年代に米ゼネラル・エレクトリックのCEO(最高経営責任者)だったジャック・ウェルチが世に広めたとされる。

 戦後の経済成長の中で事業を多角化してきた日本でも、バブル崩壊後の苦境のなか、この言葉が多用された。本来の意味は、特定の事業に焦点を当てるニュアンスのようだが、いつしか減量経営、時に不採算部門のリストラの理由に使われた感もある。

 「大手企業は別。中小企業は選択と集中をしては駄目」と強調するのはある産地の社長。この会社の場合、主力商品に力を入れながらも二の矢、三の矢の新商品を常に準備してきた。販売もOEM(相手先ブランドによる生産)と自社ブランド、自社ブランドの中でも卸やEC、卸先もA社が決定後もこれに集中せず、B社、C社と開拓を進めていく。

 「一つの道が閉ざされたら横の道、それが駄目ならまた別の道があるから」。目先の収益が優先されがちな大企業に比べ、一見無駄に見えるような将来への準備が自由にできるのは、確かに中小企業の強み。結果論と言われるかもしれないが、常に分散を心掛けた同社は新型コロナウイルスの影響もかなり抑えた。



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