《めてみみ》吾唯足知

2018/12/26 06:24 更新


 石庭が有名な京都・龍安寺。方丈を挟んで反対側の蹲(つくばい)を見に訪れる人も数多い。真ん中にある石穴を口の字に見立て、その回りの4文字と共有させながら「吾唯足知」と刻まれている。読み方は右回りに「われ・ただ・たることを・しる」

 諸説あるようだが、元は禅の言葉であり、満足を知っているものは、貧しくとも心が富んでいるという意味らしい。蹲自体も元は茶室に入る前、身を「つくばい」ながら手を洗う場所だと聞く。どんな権力者であっても、身を低くして手を清めなければならない。物質的な欲望や俗世間の富貴とは一線を画すもの。

 ファッション業界でも、目に見える商品や売り場だけでなく、作り手の思いや原料へのこだわり、環境への優しさ、産地の歴史や職人の技などをアピールする動きが強まってきた。実際に消費者の琴線に触れれば、あっという間に何百万円を売るようなクラウドファンディングも珍しくなくなった。

 間もなく年が変わる。オリンピックを控えて東京の風景が大きく変わる。少し早いが万博に向けて大阪の街も変わっていく。一方で、人間の内面的な欲求も大きく変化していくのだろう。これが消費者の行動、服に対する価値観や満足の基準にどう影響を与えていくのか。これを見極められる人、企業でないと厳しい時代が来た感がある。



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