国内縫製業からの悲鳴が強まっている。「採用に関してはもう壊滅的」「人材を確保したいなら送迎バスと食堂を用意しないと駄目、とハローワークに言われた」。多くの産業で人手不足が深刻になるなか、縫製工場を選ぶ人材は先細りする。
ある工場では、ハイテク工場に従業員1人が転職し、その後にかつての同僚を期間限定社員として誘った。紹介すると、働く期間に応じて報奨金も出るようである。社長は「給与が低くてもここで正社員として頑張れ」と引き止めたが、最終的にその従業員は工場を去った。
先日、あるパーティーで、懇意の社長が記者に話し掛けてきた。とてもうれしそうだ。得意先の1社から「御社も大変でしょう。工賃の値上げを含めて、できる範囲の協力をさせてもらいますから、頑張ってください」と言われたそうだ。おそらく担当者の判断ではなく、企業全体の考えを伝えに来たと社長は推測した。この会社の商品に関して今まで以上に真剣に作ろうと、決意を新たにした。
製造現場の地位を高め、人材を確保するためには、やはり給料や待遇の改善が不可欠だ。手詰まりの時代、作り手と売り手が本当に一緒になって、物作りを考える土壇場に差し掛かっている。厳しい時代だからこそ、力のある、良い物を作る工場は、取引先の企業姿勢をしっかり見ている。