最近聞かなくなった言葉に、TPOがある。Time(時間)、Place(場所)、Occasion(場合)に合わせて服を使い分けるという考えだ。提唱したのは、「VAN」(ヴァンヂャケット)の創業者、故石津謙介氏で『いつどこで何を着る?男のTPO事典』も出版している。当時の男性の教科書的な存在だった。
今、アスレジャーを切り口にした提案が広がっている。素材メーカーが「スポーツとファッションの融合」をキーワードにした素材開発を強め、アパレルや小売りはアスレジャースタイルを打ち出し、売り場も広がりつつある。
話を戻す。TPOがなぜ使われなくなったのか。それはファッション業界が対極の方向に進んできたから。シーンや分野の「クロスオーバー」と「着回せる服」が増え過ぎたのではと考える。スポーツと日常をワンスタイルでまかない、カジュアル化が進んだ通勤着と日常着の垣根の崩壊、ワンマイルウェアに代表される部屋着と外出着の融合…。お得さをアピールするため「着回せる」服を作ることで、結果的に多く買ってもらえるチャンスを自ら逸した。
TPOを意識することで、気持ちに張りが出て、心地よい面もある。石津氏が提唱したのが60年代。改めて、TPOをうたってはどうか。今の若い人には新鮮かもしれない。