コロナ禍を経て、健康志向が高まったことから、薬膳に注目が集まっている。薬膳といっても、実は公式な定義はないのだが、現在「中医薬膳」を中心に普及が進んでいる。中医薬膳とは、中国で2000年以上の歴史がある伝統医学「中医学」の理論に基づいて作った料理のことだ。
適切な食材を選択
中国には「薬食同源」(医食同源)という言葉がある。薬となる生薬も、普段食べている食材も、すべて出どころは一緒という意味で、いずれも自然の恵みであり、それを摂取することで、人間は健康に生活できるという思想だ。そのため、口に入るすべてのものは効能・効果があると考えられており、その人の体調、体質、症状などに合わせて、適切な食材を選択する必要がある。
効能・効果といっても、現代栄養学でいう機能性のことではない。キュウリを例に取れば、涼性、甘味、肺と脾胃(ひい)(胃腸のこと)の経絡に通じて清熱、解毒、利水といった効能・効果が知られている。野菜の性質としては涼性なので、体を少し冷やす効果があり、夏の暑さをしのぐという目的がある。また、利水を促すので、生理機能的に言っても暑さの解消につながる。旬の野菜を食べると健康に良いという言説があるが、まさに薬膳はそれを実証してくれている。ただし、食材を選ぶ際には、その人の体質・体調などを考慮しなければならない。キュウリは脾胃の経絡に入るため、冷え体質の人が食べすぎると、おなかをこわしてしまうので注意が必要だ。
食薬区分を厳守
一時期、薬膳鍋がはやったが、その多くがナツメやクコの実などを入れただけの〝偽薬膳〟といっても過言ではない。薬膳はオーダーメイド料理なので、本来であれば中医学の理論に基づき、例えば暑がりの人向けには、体を冷ます寒性や涼性の食材を組み合わせる必要がある。鍋に入っている食材をよくよくチェックするのがお勧めだ。
もう一つ、食材の選択で注意しなければならないのは、薬機法上の食薬区分を厳守することだ。専ら医薬品として使用される成分本質リストに上がっている生薬は、薬膳素材として使用できない。当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)などの漢方薬に使われるトウキの根は、婦人科系疾患によく用いられる主要生薬だが、専ら医薬品に分類されている。ただ、トウキの葉は〝非医〟扱いになっており、産地の奈良県ではトウキ葉を使ったお茶などの有効活用が盛んだ。また、むくみ解消に役立つブクリョウも専ら医薬品ではあるが、毒性があることは立証されておらず、中国では「茯苓餅(ぶくりょうもち)」などのお菓子としての長い食経験があり、今後の食薬区分の見直しに期待がかかる。
(日本食糧新聞社・藤村顕太朗)