ウェアラブルIoT(モノのインターネット)製品メーカーのミツフジ(京都府精華町)は5月22日から、新しいビジネスモデルに挑む。
【関連記事】【素材イノベーター①】新たな技術と熱意で革新
現在は生体情報を取得するスマートウェア1着、データ送信端末のトランスミッター1台当たりの価格で販売し、体調管理などができるアプリケーションを組み合わせてサービスを提供している。今後、ハードウェアを無償提供し、アプリケーションの利用に対して課金する。
法人向けは1ユーザー当たり月額5000円。19年夏までに50万ユーザーを目指す。販売は代理店に任せ、同社は研究開発に集中する。サービスを気軽に利用できる環境を整え、ウェアラブル市場を活性化する。
同社は今、国内外から注目される存在だ。昨年には融資および第三者割当増資で総額30億円の資金調達を実施。経済産業省も注目し、補助金などを通じて事業を支援している。
◆小屋からの再出発
三寺歩社長は講演会で1枚の写真を見せることがある。写っているのは小屋のような建物。三寺社長が外資系の大手IT企業を辞め、実家の三ツ冨士繊維工業(現ミツフジ)に入社した14年当時の会社だ。「トイレは外で、扉はさびて閉まらなかった」と振り返る。「会社にお金がなく、年賀状を買えば資金ショートしてしまう状況」だった。
ただし、世界で戦える独自素材があった。ナイロンに銀めっきを施した導電性繊維「エージーポス」だ。この技術を育て、確立したのは三寺社長の父で前社長の三寺康廣顧問。
康廣氏は92年、米国の銀めっき繊維メーカーとの独占契約を勝ち取り、同メーカーの技術をベースに、日本の職人技を組み合わせて開発を続けてきた。大口の注文はなかったが、大手企業の研究所などがウェアラブル製品の研究開発に利用するほど、きれいに体の電気信号が取得できる優れた導電性を備えた素材だった。
三寺社長はエージーポスを軸にした事業に絞り、15年に国内で初めて開催されたウェアラブル製品の見本市に出展した。三寺社長は自分の貯金を切り崩して出展費用を捻出し、小さなブースで技術を訴求した。ここから同社の快進撃が始まる。
◆圧倒的な開発体制
同見本市への継続出展とともに、米ラスベガスで開催されている世界最大のテクノロジー見本市のCESにも17、18年と継続出展し、国内外で商圏を急ピッチで広げている。評価の対象は素材だけではない。同社は繊維、ウェア、トランスミッターに加え、アプリケーション、クラウドも組み合わせたソリューションをニーズに応じて素早く開発・提供できるからだ。
製品開発は順調で要望は絶えず舞い込んでいた。その一方で三寺社長には引っかかっていたことがあった。「繊維の品質やソリューションの精度向上が第一の目的のようになっていた」からだ。そこで昨年11月、取引先や関係者を集めて開いた事業方針説明会で、反省しつつ強調した。「本来の目的は、人が病気になる、ストレスを抱える、スポーツがうまくなる、感情が動くメカニズムなど人間の未知を生体情報で解くこと」。
ビジネスモデル変更の背景にも、「目的を実現するために必要な技術や品質と、ユーザーが使いやすいサービスとは何かを集中して考えたい」という思いがある。調達した資金は「圧倒的な開発体制の構築」に活用する。福島県川俣町にウェアラブル製品の工場およびR&D(研究開発)施設を建設中で、9月に完工予定だ。19年1月には京都府南丹市にエージーポスの工場も稼働する。開発・生産力を増強し、ウェアラブル市場を切り開く。
【繊研新聞本紙 2018年04月11日付から】