どう作るどう守る⑤商流

2015/09/23 06:07 更新


新たな産業構造への対応を模索

 国内生産の縮小で流通構造も大きく変わった。産地内では糸を供給する糸商が減少し、テキスタイル販売では問屋や産元商社が減った。多段階でリスクを分散していたが、生産量と販売額の減少は「リスク=コスト負担」の構図を崩した。この20年間で変化した産業構造に対応した商流の構築が求められている。

コストの意識

 90年代までアパレルメーカーは、国内の問屋などから生地を購入し、国内の縫製工場で生産する仕組みが一般的だった。定番品から徐々に海外生産に移り、国内で調達した生地を海外の縫製工場で製品化するビジネスへと変わっていった。海外で付加価値の高い生地が調達できなかったこともあるが、暫8(加工再輸入減税制度)の存在が大きい。日本から生地を輸出し、海外で衣料品にして輸入すると、原材料の割合に応じて関税が減額される制度で、現在でも利用している企業は多い。

 コストの安い海外生産の増加は、アパレル・小売りのコスト意識を急速に高めていった。この意識の変化は、ミセス向けの差別化素材を扱う京都系を中心に、数多くの生地問屋を倒産に追い込んだ。残った企業の規模もピーク時の10分の1ほどだ。ただ、生産機能を持ちコスト意識が高く、リスクを張る問屋は存在感を発揮している。

製品にシフト

 SPA(製造小売業)化の加速は、アパレルの仕入れ構造を変えた。自社で物作りするのでなく、小売価格に合わせて製品を仕入れる形式で、コスト最優先の物作りだ。これがOEM(相手先ブランドによる生産)企業や商社の台頭を促した。商社は、産地に糸を供給し、作った素材を吸い上げて売るビジネスモデルからOEMへシフトした。ここ数年は、企画機能を充実し精度を高めている。ただ、中国素材を前提にしたOEMも円安や中国の労働コストの上昇で東南アジアへのシフトを余儀なくされている。それも東南アジアのコスト増で苦戦が続く。

 08年のリーマンショック以降は、デフレ傾向が続き衣料品も小売価格が低迷、製品原価が下がった。製品仕入れが常態化していくとアパレルの側でも生地値に対する意識が薄れた。一方、商社などでは中国での調達価格が一つの目安になり、コスト一辺倒の流れも相まって日本製素材の利用率が減った。この傾向は、暫8の利用状況に明らかだ。07年まで暫8の利用は関税の減税ベースで280億円前後で推移していたが、08年以降は減少傾向にあり、12年は167億円(推定)にまで減った。

 商流の変化に対応すべく国内生地メーカーはOEM企業や商社、リスク機能を持つ問屋への販売を強化した。生地にこだわりを持つセレクトショップ、アパレル、SPAへの販売を模索する企業も出てきた。円安や日本製への高い信頼性を生かし、海外販売を強める動きも活発化、ミラノウニカやプルミエール・ヴィジョンへ出展する企業も増加傾向にある。

=連載おわり

(繊研 2015/06/12 日付 19257 号 1 面)

 

どう作る、どう守る◆編集後記

 どう作る、どう守る「メード・イン・ジャパン」は、繊研新聞社の素材グループが中心になってまとめました。

 純国産表示制度「J∞QUALITY(Jクオリティー)認証事業」に代表されるようにメード・イン・ジャパンが15年は大きな注目を集めていますが、国内回帰は言われているほど進んでいないと感じている産地の関係者も多いのが現実です。

 既に店頭にはメード・イン・ジャパンのタグを付けた製品が多数並んでいます。「日本製」のタグは、表示法上は国内で縫製すれば付けることができます。ただ、ファッション・ビジネスに関わる製造業では、労働集約型の縫製業が、いち早く海外に移転してしまったため、現状では多くの工場が注文で一杯の状況です。

素材産業も空洞化が進みピーク時の10分の1程度にまで縮小してしまいましたが、それなりの規模を維持しています。しかし産業としての規模が維持できるかどうかの瀬戸際にあるのも事実です。

 今回の連載では、世界的に高い評価を受けながらも存続の危機に瀕している日本のテキスタイル産業の現状をテキスタイル産業の関係者だけでなく、アパレルや小売関係の読者のみなさんにも読んでもらえるように配慮して書いたつもりです。ただ、表現法方法は最後まで迷いました。そうした迷いが原稿にも現れ視点が揺れ動いた文章になってしまったかもしれません。

 素材担当記者は全国に配置されています。今後も今回同様にグループの記者1人ひとりがもつ多様な情報を、幅広い読者の皆さんに読んでいただけるように工夫しながらテキスタイル産業の現状と課題を紹介していければと考えています。

編集局 素材グループ

【1】どう作るどう守る①単位の違い 【2】どう作るどう守る②連携
【3】どう作るどう守る③技術  【4】どう作るどう守る④人材

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