共に創る~従来型の発想・手法から脱却
競合激化と消費の変化はファッションビジネス(FB)企業に新たな価値とビジネスモデルの創造を迫っている。こうした中、サマンサタバサジャパンリミテッドグループのアパレルメーカー、レストローズとルミネは、25歳~30代前半女性を中心顧客対象とするブランド「アンドクチュール」を共同開発し、3月から事業を開始した。
不動産賃貸業であるSCディベロッパーとテナント企業がコンセプト作りの段階から新しいブランドを開発するのは異例だ。新井良亮ルミネ社長と寺田和正サマンサタバサジャパンリミテッド代表取締役会長兼社長(レストローズ社長)はともに、「従来型の発想と手法から脱却し、新しいものを創り出さなければ、進化する消費者ニーズに対応できない」と強調する。
踏み込む必要性
――取り組みのきっかけは。
寺田 昨年5月ごろに私から新井社長にお願いし、快諾していただいた。レストローズは39年の歴史があり、パタンナーとデザイナーを社内に配置し、中国だけでなく、国内の工場も活用して高品質な商品を作るアパレルメーカー。社員だけでなく、取引先工場の方々を含めた「物づくり」のプロフェッショナル集団だ。新井社長は常々、独自価値や物づくりの重要性を強調されている。レストローズの独自価値でもある物づくりにもっと光を当て、新たな価値を生み出すために、(理念が合致する)ルミネと組みたいと考えた。
新井 寺田会長の提案に共感した。お客様のニーズはますます高度化し、重層化している。従来の延長線上のやり方では対応できない。当社はこれまでも各ショップと組んで、独自の商品とMDを強化してきた。今後、新しい価値があるものを市場に提案するためには、さらに踏み込む必要があると考えた。2社で互いにアイデア、ニーズを出し合い、クリエーティブな仕事をしていこうという方針で寺田会長と一致した。
全てがお客目線
――2社の役割分担は。
寺田 当社が商品を作り、店舗を運営する形だが、全てゼロベースで一緒に開発に取り組んだ。プロジェクトには当社からは私と、デザイナーを中心にした商品開発に関わるスタッフ、ルミネからはリーシングなどを行う女性を主体とした現場社員が参加し、ブランドデビューまでの終盤は毎週、打ち合わせをした。
陣頭指揮は私が執ったが、(ブランド開発全体の)ほぼ80%はルミネからのアイデアに基づいて決めた。「カジュアルにクチュール感を加える」という商品コンセプトのほか、試着室に3枚重ねのカーテンを使ったり、造花ではなく、生花を店のメーンディスプレーに常時配置するなどだ。実は、イメージモデルに人気モデルの中村アンさんを起用する案もルミネから出された。
当社は宣伝が大きな強みで、数多くのタレントやモデルを宣伝に起用しているが、今回はルミネの提案の方が良かった。中村さんのイメージがわくこと自体にルミネの強さを感じた。メンテナンスに手間がかかる生花を入れるなどの発想も普通はテナントからは出ない。常にお客様目線であるルミネならではの発想だ。アイデア全てがとても新鮮で、刺激になった。
新井 従来型の不動産賃貸業的な手法では閉塞(へいそく)感がある中で、当社としては経営トップではなく、お客様のニーズの最前線にいる現場に参画してほしかった。今回は率直な話し合いができるメンバーが揃った。
――ショップオープンからの売り上げは。
寺田 オープン記念イベントを各店で行った今月8日までの段階で、予算を上回っている。欠品した商品もある。当社が新ブランド1号店を大きな宣伝をする前に出すのはこれが初めてなので、驚いている。コンセプトと商品の良さがお客様にしっかり伝わっていると手応えを感じる。
新井 ブランドを一からしっかり作りこんだこと、両社の開発に対する「思い」がお客様に理解されているのだと思う。ただし、「作って終わり」ではだめだ。常に、店頭を基点に、互いにいろんな知恵を出し合い、次から次へと新しいものを生み出していかなければならない。
(繊研 2015/03/10 日付 19194 号 1 面)