選ぶ過程をブランディング
物語に沿って
ウェブデザイン会社のジャンル(東京)代表、大島宏之は栃木県佐野市にある実家のニット工場、大島メリヤスを活用したブランド「チューズニット」を13年末に立ち上げた。「モノを選ぶまでのコミュニケーションをブランディングしたい」との思いから、子供向けマフラーや帽子をカスタマイズする絵本型オーダーキットを開発。選ぶ楽しみを体感できるギフトとして好評で、百貨店でのイベントが増え、今秋冬は大手百貨店の基幹店でクリスマスギフトとしての取り組みが決まった。
大島がブランドを立ち上げる際、意識したのは中国製ではまねできないこと。「ぬくもりと距離感」を大切にした。得意のウェブは活用しつつ、そこだけでは完結しないオーダーの仕組みを確立。オーダーキットを介して小売りと消費者、ギフトの送り手と受け手の間にコミュニケーションが起こることでモノ以上の価値が生まれる。
チューズニットでは製品でなく、オーダーキットを販売するため、糸さえ準備すれば、在庫リスクは少ない。大人版はカタログと編み地見本が付くキットから選ぶだけだが、子供向けは絵本の物語に沿って、シールを貼るなど親子で遊びながら色や柄を選べる。大島は「単に技術がすごいと訴える従来型のファクトリーブランドとは一線を画したい」と強調する。
自立の道探る
大島メリヤスは創業50年以上のニット工場。従業員20人弱で、ミドルゲージのニット生産が中心。婦人のデザイナーブランドのOEM(相手先ブランドによる生産)が主力だ。大島にとって父親の工場であり、子供の頃から職人たちの苦労を身近に感じてきた。だからこそ、大島は「国内工場の本当の生き残り策は何か」を常に自問自答している。他社でもウェブを主戦場にした課題解決型オーダービジネスは増えているが、工場が持続するにはそれだけでは難しい。まとまったロットの定番品を生産できるのが工場の理想。チューズニットもオーダーなので、糸の色を変えて編み立てる手間はあるものの、形はシンプル。オーダーの生産量が増え、本業のOEMとのバランスが取れれば、国内工場の自立の道も見えてくる。(敬称略)
(繊研 2015/09/09 日付 19316 号 1 面)