異業種からの参入であっても、その道のプロが開発した洋服には消費者の心を揺さぶる力がある。通常のファッションブランドとは違った専門性とブランドストーリーからだ。
プロのオートバイレーサーだった中野真矢氏が代表を務めるオフィスフォーエイト(千葉市)は、10年前にスタートしたバイクウェア「56デザイン」で新たにファッション販路の開拓を目指す。「モーターサイクルカルチャーをもっと広めたい」との思いからジーンズやバッグメーカーとの協業にも力を入れている。
(大竹清臣)
あえて普段使い
中野代表はオートバイレース「モトGP」で11年間活躍した後、同ブランドを立ち上げた。イタリア、フランス、スペインで暮らした経験から、モータースポーツの社会的認知度が高く、文化として定着している欧州に刺激を受け、バイクに対する印象が悪い日本でイメージを変え、ファンを増やすためにも、まずファッションに着手したという。

ブランドはあえて普段使いを意識し、Tシャツ、ロンT、パーカからスタートした。Tシャツ(5000円台)やポロシャツ(9000円台)にはチェッカーフラッグやカーボンパターンのワッペンなどをワンポイントに付けた。
さらに当時タブーと言われたジーンズとフード付きアイテムも開発した。主力アイテムのライディングジャケットは「バイク乗車時の安全性を考慮した機能性は備えつつ、普段着として街で着られるファッション性を重視した」という。
ナイロンやコットン使いを中心に立体的なパターンや肩やひじ部分のパッド、防風機能(夏は通気性)などを標準装備する。柄物で3万円台。ブランド名にある56はレーサー時代の背番号に由来する。
ファン拡大狙う
卸し先は現在、バイクショップやバイク用品店が中心だが、ファッションブランドとの協業をきっかけに新たなファンの拡大を狙う。「エドウイン」とは「コーデュラ」を使った立体的で動きやすいジーンズ、革小物のモルフォとはモータースポーツ切り口の「ノイインテレッセ」とバッグや小物を企画した。そのほか、カシオと「Gショック」でも協業した。

ファン作りのイベントも大切にしている。顧客参加型のツーリング企画を年2、3回開催。「単に長く走るのではなく、おいしい食事や自然とのふれあい、交流など目的地での体験の共有を重視する」(中野代表)という。千葉市中央区に構える直営旗艦店の2階をラウンジにしてコーヒーを提供。フォトコンテストを開くなどツーリングの行き帰りに気軽に立ち寄ってもらうなどコミュニティーの場になっている。

客層はバイクライフを楽しむシニア層をはじめ、若いころ以来の復帰組、新規の若い世代まで幅広くなっている。千葉・東金のガレージ(バイク20台以上収納可)でプロの整備士を呼んだメンテナンス講習会、ウェアやグッズの手入れなども実施する。
自分を育ててくれたバイク業界への恩返しとして、10代の若いライダーの育成にも力を入れている。