世界の舞台で活躍してきた日本人ダンサーが探求する『YORIDOKORO』とは(宮沢香奈)

2026/07/24 06:00 更新NEW!


6月4日から6日までの3日間、ベルリン・ミッテ区の劇場「DOCK11」で、ベルリンを拠点に活動するダンサー兼映画作家・朶惠(えだ めぐみ)による舞台『YORIDOKORO – Silent Anchor』が上演された。フランスを拠点に活動するサウンドアーティスト・山田玲子とのコラボレーションによる本作は、朶がこれまであえて語らずにきた自身の感情や記憶に向き合い、コンテンポラリーダンスとパフォーマンスを通して表現した作品だ。

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幕開けは、真っ白な衣装で登場し、圧巻の美しいダンスやポージングを披露。その後、一転して2人がビデオ通話をしながら遠隔でバレーボールの練習をする映像が流れる。ボールを持ったまま劇場内を逆走する場面や、舞台と客席の間に突然ネットが張られ、ラリーが始まる演出は思わず笑ってしまうほどユニークで独創的だった。


観客参加型のパフォーマンスは全体的にコミカルで軽やかな印象を与える一方、胸が締め付けられるような瞬間や、どこか切なさを感じさせる場面もある。それは誰もが抱えるであろう「過去の苦い記憶」を思い起こさせるからかもしれない。

終演後のインタビューで朶は、「バレーボールが大の苦手だった」と明かした。一方、共演者の山田はビーチバレーのセミプロという対照的な存在だ。なぜ、苦手なバレーボールを題材に選んだのだろうか。

「私がダンス、山田さんがサウンドという役割だけではなく、『YORIDOKORO』というテーマそのものを一緒に見つけるところから作品づくりが始まりました。少し前に人生が大きく揺らぐ出来事があり、それをきっかけに、自分にとって本当に安心できる場所とは何か、何に支えられてきたのか、『心の拠り所』とは何かを深く考えるようになりました。

この作品で描きたかったのは、単に”バレーボールが苦手”という話ではありません。苦手なものを前にすると、突然ありのままの自分でいられなくなるのです。周りは何も気にしていないかもしれないのに、自分だけが焦り、変に笑ったり平気なふりをしたりしてしまう。本当は隠れたいのに、まるで別人を演じているような感覚になります。そして、自分で自分を閉じ込める小さな刑務所のようなものを作ってしまうのです。トラウマに近い感覚かもしれませんが、こうした経験は私だけではなく、誰にでも苦手なものや怖いもの、人に見せたくない弱さがありますよね。そういう時、人は簡単にありのままではいられなくなると思います。

この作品を通して最終的に見つめていたのは、”下手な自分を私はまだ愛せていない”ということだったのかもしれません。本当は、”下手でもいいんだよ”と自分に優しくなりたい。もっと飾らない自分でいたい。自分自身を認めたい。そういう“本当の自分を探す旅”だったのだと思います。ありのままで存在できること。それこそが、私にとっての『YORIDOKORO』です」


作品にはバレーボール以外にも、自身が苦手だったものが取り入れられている。一つはロンドンで共に仕事をした振付家との経験、もう一つは幼少期から続けてきたクラシックバレエのステップだ。ブリティッシュアクセントの早口の英語が理解できず輪に入れなかったことや、本番で何度も失敗したステップなど、「うまくできない自分」と向き合わなければならなかった記憶が作品の中に織り込まれている。

山田と共にバレーボールをするラストシーンに「下手でもいい」「そのままでいい」というメッセージを込めているという。また今回は、できるだけ言葉を使わず、身体表現だけでどこまで思いを伝えられるのかという挑戦でもあった。


朶は3歳からクラシックバレエを始め、松山バレエ団を経て、日本人として初めてハンブルク・バレエ団に入団。その後、オランダ国立バレエ団やランバート・ダンス・カンパニーで活躍し、ニューヨークのArmitage Gone! DanceではKarole Armitageのミューズとして活動した。2004年には「New York Dance Award(Bessie Award)」を受賞し、2009年と2015年には『Dance Magazine』誌の「Best Performers」に選出されるなど、国際的なキャリアを築いてきた。2019年からはベルリンを拠点に、マルチメディア・パフォーミング・アーティストとして活動する一方、映像作家としても表現の幅を広げている。

10代で日本を離れ、長年にわたり世界の舞台で活躍してきた朶だが、今作の『YORIDOKORO – Silent Anchor』については、まだ完成形ではないと語る。しかし、それは決して否定的な意味ではなく、今後さらに掘り下げ、育てていきたい大切な作品になったということだ。


コンテンポラリー作品は抽象性が高く、テーマやコンセプトを聞いても理解が難しいことがある。しかし、それこそが作品の魅力でもある。観る人それぞれが自由に受け止め、自分自身の「拠り所」を考えるきっかけとなる作品だった。次にこの作品と再会する時、自分自身がどのように受け止めるのか、その変化も楽しみにしたい。

■Megumi Eda
https://www.megumieda.com/

■DOCK 11
https://dock11-berlin.de/en

(Photography:Kai Bernstein)

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長野県生まれ。文化服装学院ファッションビジネス科卒業。

セレクトショップのプレス、ブランドディレクターなどを経たのち、フリーランスとしてPR事業をスタートさせる。ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積みながら、ライターとしても執筆活動を開始する。ヨーロッパのフェスやローカルカルチャーの取材を行うなど海外へと活動の幅を広げ、2014年には東京からベルリンへと拠点を移す。現在、多くの媒体にて連載を持ち、ベルリンをはじめとするヨーロッパ各地の現地情報を伝えている。主な媒体に、Qetic、VOGUE、men’sFUDGE、繊研新聞、WWD Beautyなどがある。



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