【インタビュー】経済産業省製造産業局長 多田明弘氏

2018/02/03 04:30 更新


経済産業省製造産業局 多田明弘局長

今こそ「やってみなはれ」精神

 国内の製造業を取り巻く環境は刻一刻と変わり、「先を読める時代ではない」という。だからこそ、「今のうちに打っておかなければならない手を着実に打っていただきたい」と語る。

 ――繊維業界をどう見ているか。

 私が繊維を担当していた88、89年ごろから「消費者の嗜好(しこう)は多種多様になっている」として、多品種小ロット対応の必要性は指摘されていました。今は言葉は同じでも中身は変質したと思います。

 以前は「一品でも提供しよう」という発想はなかったでしょうし、「クイックレスポンス、クイックデリバリーだ」と言っても、翌日配送まで想定していなかったでしょう。ネットビジネスも念頭になかった。

 消費の構図も変わってきました。流行に左右されない固有の価値観も広がっています。マスメディアが作る流行だけでなく、インフルエンサーだとか、自分にとっての憧れを追いかける動きから生じる流行もあります。マスプロダクトを作るのか、個人のニーズに合わせてカスタマイズしながらものを作るのかなど、どういう方向性で手を打っていくのかを考えておくことは必要だと思っています。

 ――IoT(モノのインターネット)技術はものづくりに有効か。

 うまく活用できればものづくりはやりやすくなるはずだと思いますね。今は消費者の嗜好など様々な情報を取ろうと思えば取れるようになってきました。消費者がどんな商品に関心を示し、どんな商品を買ったのかという購買履歴がわかる。

 一方、製造現場で言えば、日々の生産設備の稼働状況がデータとしてどんどん蓄積されていく。これらの情報はAI(人工知能)で解析され、消費者のニーズに沿った新しい商品開発や、生産効率の改善などに活用できます。IoT技術を通じて得た情報は、企業にとって新しい経営資源になりつつあるのです。

 同じ目的を持つ他社とデータを共有して一緒に開発すれば、新しいやり方を発見できるのではないかという考え方もあります。私たちが提唱している「コネクテッド・インダストリーズ」のコンセプトは、そんな考え方へと発展させるきっかけになるはずです。

 ――コネクテッド・インダストリーズとは。

 昨年3月、世耕弘成経済産業相がドイツで開かれた情報通信見本市「CeBIT」(セビット)で、日本の産業が目指す姿として示したコンセプトです。マーケットは変化していますし、今この瞬間もAIやIoT関連技術は進化しています。経営者の皆さんの中には「今のままで大丈夫だろうか」という漠然とした不安を持ち、「どうしていいかわからない」という方もいらっしゃると思います。

 これからの時代、複雑で多様な課題も多く、企業単独のリソースのみでは解決しがたいものばかり。その思いに対して私たちが「技術を活用し、つながることで課題解決や新たな付加価値を創出する」といったコネクテッド・インダストリーズのコンセプトを示すことで、今後の産業の将来像と経営の方向性をポジティブに考えるためのヒントになるのではないかと思っています。

サプライチェーンで強い連携を


 ――大手の製造業はIoT技術を既に導入し、活用している。

 そういうケースは多いと思います。ただし、中小企業はそうではない。繊維業界に限らず、大企業だけでサプライチェーンが成り立っている製造業は、ほとんどありません。

 先進的な企業の取り組みの効果を最大限に高めるためにも、サプライチェーンの一員である中小企業も取り組みを進め、しっかりと連携できる体制を整えていただきたい。政府が支援するというやり方もあると思いますし、サプライチェーンの企業間で支援し合う方法だってあると思います。

 あとは何のためにサプライチェーン間で連携するのか、関係者でよく煮詰めることが大事です。消費者の要望に沿った、今以上に良い生地を作るため、あるいは消費者に商品をもっと早く届けるため――とか、これまでできなかったことを実現するためにデータを共有する、という目的を明確にして考えていくのが良いのではないでしょうか。

 ――将来展望が見えてきた。

 変化に対して少しずつ動いている企業がいて、具体的なアクションを起こし、その成果も少しずつ見えてくると、二の足を踏んでいる経営者の方々に元気を与えることになるのではないでしょうか。フロントランナーと見られている企業の経営者にはぜひがんばっていただきたい。

 企業経営というのはきっと挑戦の連続です。今までやっていたことをこれからも同じようにやり続けたとしても、たぶん経営はうまくいかないでしょう。常に挑戦することをこれまでの経営者の方々はやってこられたでしょうし、今の経営者の方々もやっておられると思います。

 とはいえ、挑戦するとしても、できれば失敗はしたくないと思うのが世の常。この先がどうなるか読める人はいないくらい今は難しい時代かもしれませんが、逆にこういう時だからこそ「やってみなはれ」の精神が求められているのではないかという気がしています。



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