世代超え受け継がれる、価値ある魅力とは?(宇佐美浩子)

2015/05/20 14:48 更新


春の陽ざしが注がれ始めた4月後半、かなり久々にコペンハーゲンを訪れた。

振り返れば少女時代の私にとって文化的なシゲキを受けた都市であり、そして今なおその魅力はパワーダウンすることなく、自身のライフスタイルに根付いている。

そんな思いを共有することとなる1本から、今回のシネマな旅をスタート。



 偶然というか必然というか、搭乗したSAS機内にても上映されていたデンマーク映画「真夜中のゆりかご」。

「もしやホラー映画?」といったイメージが拭いきれない邦題ではあるが、ストーリーはより深い部分の人間の心理に焦点を当てた、原題の「A Second Chance」が物語る内容となっている。

「もしも仮に、作品同様のハプニングに自身が直面したなら、あなたはどうしますか?」。そんな問いを投げかけられているかのような感覚を覚える。

時に強く、そしてもろくもある人間ドラマを描く、デンマーク映画界をリードする監督の一人スサンネ・ビア。彼女はエルサレムの大学で芸術を学んだ後、ロンドンの建築学校、そしてデンマーク映画学校を卒業後、映画界で活躍するという多角的視野に富んだ背景の持ち主だ。数々の話題作を世に送り出す彼女の才能は、そうしたキャリアも影響しているのだろう。

 さて、自身を含む観客の目に柔らかな光の残像をいつまでも放つのが、スクリーンに広がる主人公の家のインテリアだ。作品の国籍もあってか、北欧テイストが香るインテリアの魅力。そのブランドについて尋ねてみたところ、次のような回答を得た。

 「まずダイニングテーブルの椅子は、これまでに500種類以上の椅子をデザインしてきたデンマークが誇る匠HANS JØRGEN WEGNER(ハンスJウェグナー)の作品です。彼の作品は木の美しさを表現することで定評があります。

また物語の後半に、母親たちがティータイムを楽しむ際に使用している食器は、スウェーデンの老舗陶磁器ブランド『Rörstrand(ロールストランド)』のMon Amie(モナミ)という製品です。

そしてベッドルームで使用しているファブリックの内、ピローはデンマークの人気インテリアプロダクトのブランド『HAY』のものです。北欧テイストというよりは、むしろインターナショナルなライフスタイルをコーディネートするコレクションが特徴です」。

 なんともまるで、過日立ち寄ったファッションから家具までトータルで揃う、ライフスタイル系セレクトショップこと、コペンハーゲンの中心地にたたずむ「Illums Bolighus」館内を周遊するかのようなコメントといえそうな。是非ともスクリーン上で、ご確認なさってみてほしい。



 思えば偶然目にした、デンマークの家具ブランド「Bo Concept」のポスター、そして間もなく公開になる「悪党に粛清を」でも主演を務めるマッツ・ミケルセン。国際的な活躍ぶりが注目の彼を筆頭に、昨今デンマーク出身の俳優がさまざまな国籍の作品に登場する。そして本作で主人公を演じるニコライ・コスター=ワルドーもそんな一人だ。

昨年末、日本公開になったジュリエット・ビノッシュ主演の「おやすみなさいを言いたくて」では彼女の相手役を、また2011年にスタートしたTVシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」では世界的に熱き視線を集めるなど、今まさに気になる俳優の一人に数えられそうだ。

そしてまた本作でスクリーンデビューを果たしたリッケ・メイ・アンデルセン。

19歳でファッション誌「ヴォーグ」の表紙を飾り、以後15年以上にわたり、ルイ・ヴィトン、クリスチャン・ディオール、ヴァレンティノ…といった有名メゾンのランウェイにも登場するなど、トップモデルとして世界的に活躍を続ける。

そんな彼女と監督の出会いが、監督の確信ともいえる揺るぎない思いから出演オファー、そして夢の結実へと発展したのが本作というのだから・・・。今後の動向が楽しみかも。


 
 『真夜中のゆりかご』
5月15日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開。
© 2014 Zentropa Entertainments34 ApS & Zentropa International Sweden AB


前述の作品では、モデルが女優に挑戦するというケースだったが、次なる作品は、ファッション大好き歴が長~い女性たちがモデルに挑戦するというケース。それが1本のドキュメンタリー映画「アドバンスト・スタイル」となった話題を。

「おしゃれは誰のために、なんのためにするの?」。

そんな問いかけに対する答えがたくさん詰まっている本作は、女性ばかりか男性諸氏もきっと、Over 60’sの輝ける女性たちから、生きることの楽しさをご教示いただくに違いない。


 


 タイトルと同名の人気ブログの創設者で、本作のプロデューサーも務めるアリ・セス・コーエン。

二人の祖母たちから学んだ審美眼と失礼のない会話術を携え、NYの街角で出くわした個性豊かなファッションセンスを持つ60代以上の7人のミューズたちへインタビュー。

友人でビデオ撮影家のリナ・ブライオブライトによる撮影。

加えてミニマムな製作費(5万ドル以下)と、トータル4人のスタッフで、4年の歳月を経て完成したというのだから、登場人物のミューズたち同様、どんな夢も心から願えばかなうことを痛感する。

さらにまた、先日訪れたロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館で目にした展示タイトル「What is Luxuary?」。今なおココロに響くその問いに対するキーワードも、本作の随所にちりばめられているようにも思った次第。


 
5月29日よりTOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ新宿ほかにて全国順次公開予定。
© 2014 Advanced Style The Documentary Llc. All Right Reserved.


 最後に、現在公開中のファッションが気になる作品に、少しばかり触れたいと思う。

なぜなら詐欺師を演じるヒロイン(マーゴット・ロビー)がキャリアを重ねていく中で、ファッションセンスに磨きがかかり、その変貌ぶりとココロ模様の相関関係について、興味を抱かずにはいられないからだ。加えて、作品の資料にも記されていたのだが、ファッションと色の関係にも。

おそらく多くの女性たちはきっと心身ともに、いつまでもチャーミングでいたいと思うはず。それは、おしゃれをするということの大切さ、さらには生活を楽しむことの大切さ。そんな思いを今回の3作を通じ、シェアしてみたく。


 
新宿ピカデリーほかにて全国公開中。
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うさみ・ひろこ 東京人。音楽、アート、ファッション好きな少女がやがてFMラジオ(J-wave等)番組制作で長年の経験を積む。同時に有名メゾンのイベント、雑誌、書籍、キャセイパシフィック航空web「香港スタイル」での連載等を経て、「Tokyo Perspective」(英中語)他でライフスタイル系編集執筆を中心に活動中



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