世界中を包み込む緊急事態に、最前線で真摯に挑み続ける方々に、心から敬意を表したく思う。
と同時に、「思いやる」という言葉の本質を考える機会を得た人も、多々おいでではないかと。
いつもと違うGolden Weekの街の様相が、若葉の季節とリンクする5月の日本。
そんな折、新たな感動のスタイルが次々と誕生していることに人知の偉大さを実感する。
そこで5月最初の「CINEMATIC JOURNEY」は、シネマ観賞のニュースタンダードとも言えそうな、革新的話題から。
「仮設の映画館」とネーミングされ、5月2日に開館した当劇場。
ご想像の通り、今回の新型コロナウィルスの影響による休館に伴い、予定していた劇場公開と並行し、インターネット上に作られた映画館となる。
❝新作映画を楽しみにしている観客、劇場、配給、製作者、みんなにとって何かよいことができないか❞
そうした映画愛にあふれるチーム、『精神0』の想田和弘監督&配給会社「東風」のスタッフ。
彼らが一丸となり、知恵と情熱を存分に発揮し、実現したというわけだ。
さて、その観賞方法だが、観客は上記のように、作品が上映されている全国の劇場から最寄りの1館を選択し、オンラインでの鑑賞となる。
そして、その料金(1800円税込)は「本物の映画館」の興行収入同様、それぞれの劇場と配給会社、製作者に分配するという仕組みなのだという。
というわけで、その発起人である想田監督の新作『精神0』は、海外での評価も高く、第70回ベルリン国際映画祭フォーラム部門<エキュメニカル審査員賞>受賞をはじめ、「ニューヨーク近代美術館Doc Fortnight2020正式招待」された作品だ。
ちなみに、エキュメニカル審査員賞とは、宗派を超えたキリスト教者6人の審査員により選出される賞のことだそう。
さて、「観察映画」第9弾となる本作についてご紹介する前に、まず「観察映画」という聞きなれないカテゴリーについて少しばかりここにご紹介したく。
いわば「想田流シンプルなスタイルのドキュメンタリー」と表現してもいいかと思っているのだが、「観察映画の十戒」から成る独自の手法(詳細は本作オフィシャルサイトにて公開されている)が設定されている。とりわけ心に響いた内容をいくつか下記に列挙させていただくと;
「被写体との撮影内容に関する打合わせは、原則行わない。」
「行き当たりばったりでカメラを回し、予定調和を求めない。」
「その場に居合わせたかのような臨場感や、時間の流れを大切にする」(本作資料より一部引用)
そこで、私も予め多くを語らずに、皆様に本作をご覧になっていただくのがイチバン!と思っている。
でもなぜ今、本作をご紹介したいかというと、それは今回の「CINEMATIC JOURNEY」の冒頭にも記した通り、「思いやる」という言葉の本質が、本作にはたくさんあふれているからだ。
主人公となる精神科医の山本昌知医師が82歳を機に引退を決意した生き様。そして妻、芳子さんが歩んでこられた人生。
それぞれの人生が重なり合う今、観る者たちの心の眼に様々な風景となって映しだされるだろう。
まずは「@ホーム」で味わってみては。
「仮設の映画館」にて全国一斉配信中、以降「シアター・イメージフォーラム」ほか全国順次公開
©2020Laboratory X,Inc
さて、「期せずして完成した愛の物語」という監督のコメントが印象的な『精神0』の公開を機に、開館が決定した「仮設の映画館」では現在、他にもさまざまな作品が公開中だ。
たとえば『精神0』同様、夫婦そして家族愛がほとばしるチベット映画『巡礼の約束』もその一つ。
東京での公開2週目から新型コロナウィルスの影響を受け、その後各地で休館による上映中止などが相次ぎ観賞が難しくなった作品だ。
物語の舞台となるチベット高原の東端、ギャロンは美人が多いことでも知られ、そんな女性たちがまとう伝統的な衣装もまた美しいことで有名だそう。とりわけ上記画像のヒロインのヘッドアクセサリーに見るように、独特な色使いとデザインが魅惑的なのだとか。
「ギャロンの女性は16歳で成人式を行います。その際、チベット人のような細かい三つ編みを編み、映画に出てくるような刺繍が施された大人の女性用布飾りを身につけるのです。この飾り布はテーブルクロスくらいの大きさですので、使用する時は折りたたんで頭にのせています」
と語るのは、主演とプロデューサーを兼務するヨンジョンジャ。彼は歌手、チベット文化の普及・継承を担う芸術家でもある。
というわけで本作の配給会社である「ムヴィオラ」からのメッセージ:
❝映画を「等身大より大きく見えるスクリーン」で見る喜び。1日も早く、その喜びを取り戻したいと思います…❞
と共に、「中国で最も美しい村」に選ばれたギャロンから、チベット仏教の聖地ラサへと向かう、本作の核となる巡礼の旅の場面写真で、今回の「CINEMATIC JOURNEY」のフィナーレを飾りたく。
「仮設の映画館」にて全国一斉配信中(~2020年5月31日(日)21:00まで/延長の可能性あり)
©GARUDA FILM
うさみ・ひろこ 東京人。音楽、アート、ファッション好きな少女がやがてFMラジオ(J-wave等)番組制作で長年の経験を積む。同時に有名メゾンのイベント、雑誌、書籍、キャセイパシフィック航空web「香港スタイル」での連載等を経て、「Tokyo Perspective」(英中語)他でライフスタイル系編集執筆を中心に活動中