店の個性が色濃く現れるのが品揃えだ。その嗜好(しこう)の方向性に共感し、客は足を運ぶ。店が飽和し、ネット販売が台頭するなか、独自性が感じられない無個性な店ではもう生き残っていけない。他店と差別化するためにも、新規ブランドの開拓・導入は必須。ブランドを発見する手段や客に定着させる方法とともに、新ブランドを導入することの重要性について聞いた。
ザ・フォーアイド 対等な関係性を重視 顧客の意識を高める
「店はこれからの時代、フロンティア精神が欠かせない」とは、東京・新宿区歌舞伎町の歓楽街の一角にあるメンズ・レディスセレクトショップ「ザ・フォーアイド」の藤田佳祐クリエイティブディレクター兼フォトグラファーだ。毎シーズン2、3の新規ブランドを導入しており、今秋冬は新たに5ブランドを加えた。「店は時代に合わせて変わることが大事」という。
新たに導入したのは、「アシュリー・ウィリアムズ」「fomme」など欧州のデザイナーが手掛ける新興ブランドが中心だ。元々、品揃えは英国の若手ブランド中心で、他店ではあまり見かけない服が多い。「売れるから」で仕入れるのではなく、認知度の低いブランドを自店で売れるようにして、他店へ取扱先が広がっていくことを望んでいる。それが「自店の価値を高めることにつながる」と考えているからだ。実際、同店が国内で初めて販売し、他店にも広がった例はいくつかあるという。
新規ブランドを見つける手段は、「ウェブ、SNSなどのメディアが主流」という。印象的だったブランドはメモするなど蓄積しておく。こうしたブランドに海外の合同展で偶然出会い、「縁を感じて取り扱いに至る」こともあるようだ。
ブランドと付き合う上で重視しているのは、「対等な関係性」だ。同店は1店舗のみの個店。「規模の大きいブランドでは釣り合いが取れない。大抵は直営店や旗艦店があるし、当店でわざわざ販売する必要性を感じない」と考えている。
新規のブランドを定着させていく上では、顧客に対して「無理に提案はしない」という。それよりも「顧客自身がファッションを考える力を高めること」に重点を置く。
客に対して服の着方を指南することもあり、「あえて接客は丁寧になりすぎないように」している。それでも顧客になる人は残り、結果的にファッションリテラシーの高い客が同店に通うようになっている。なじみのない新規ブランドでも、「顧客自身がバイヤーのように服の良しあしを自己判断し、買う買わないを決めている」。そのため、「良い服であれば新規ブランドであっても自然に売れていく」ようだ。


ヌメロサンク ブランドの声生かす トラッドを軸にいいものを
アンディハウス(京都市)のメンズ・レディスセレクトショップ「ヌメロサンク」(♯5)が、新規ブランドを見つけるうえで参考にしているのは、既存の主力ブランドの声だ。同社は、「トラッドを軸にいいものを長く着てもらいたい」という目線のセレクトを貫いている。こうした視点を熟知し、同じ目線で話すことの出来る取り組みブランドは、店にとって有力な情報をくれることもある。
同店では18年秋冬物から「ゴールドウイン」を新たに品揃えに加えた。「ザ・ノース・フェイス」などを手掛けるゴールドウインの社名ブランドで、同社が有力ブランドの生産で培ったノウハウを駆使した企画が中心になる。小物の収納が可能なコットンチノトラウザーなど、すでに完売し始めた商品も出てきた。
新規ブランドの育て方については、「商品の良さを、店としてさらに踏み込んだ形で伝えると同時に、自分たちがどれだけそのブランドに入れ込んでいるのかもアピールすることが大事」(池沼尚毅常務取締役)と言う。踏み込んで伝える内容としては、商品だけでなく、それを手掛ける会社や作り手の魅力や考えもある。これらをスタッフみんながなるべく体得し、接客の中で生かすことを重視している。
17年秋冬から新規で扱いをスタートし、新たな切り口の提案として手応えがあるブランドが、メンズの「マーカウェア」だ。同ブランドはサステイナビリティー(持続可能性)を考えた物作りが特徴で、トレーサビリティー(履歴管理)も実現している。
「世界でサステイナビリティーが広がっている中、時代を見据えた服作りをしているところに魅力を感じた」ので、取引を始めた。「ブランドと互いに目標を共有し、一緒にチャレンジしていくような気持ちになれるなど、長く良好な関係が持てそうな感触も、ブランドを開拓するうえで重要」で、同ブランドともシーズンを重ねるごとに取り組みを強め、顧客の反応も良くなっている。
同店は現在、メンズで15、レディスで10のブランドを扱う。新ブランドの導入については、「店の鮮度実現や新規客の獲得のために必要性は高い」とする。一方で、「既存顧客が離れてしまうほど大胆な品揃えの変更はリスクがある。顧客もキープでき、若いお客が少し背伸びをして欲しくなるようなブランドをこれから加えていきたい」とする。

(繊研新聞本紙 2018/11/22 日付)