知的障害のあるアーティストの優れた才能を発掘して事業化するヘラルボニー(岩手県花巻市、松田崇弥社長)は、アート作品を製品化するBtoC(企業対消費者取引)ブランド「ムク」をリブランディングして「ヘラルボニー」に変更、障害者のアートを高い品質で製品化し、「知的障害のイメージを変える」ブランドとしてブラッシュアップする。
ブランドのモデルにはアオイヤマダ、ヘアメイクアップアーティストは冨沢ノボル、ファッションデザイナーにはササキハルキを起用した。
ムクではネクタイ、ハンカチ、傘、Tシャツ、靴下、ブックカバーなど幅広く製品化してきたが、今後は「圧倒的に売れていた」(松田社長)というハンカチとネクタイに絞った。ハンカチは16種類の新柄を加えた。
公式サイトのほか、4~11日には盛岡市の百貨店、川徳に期間限定店を出店している。ネクタイは2万2000円、ハンカチ2500円。
■身近にあった障害や福祉
「異彩を、放て。」をミッションに掲げ、福祉を起点に新たな文化の創造を目指す同社の松田社長と松田文登副社長は双子の兄弟。4歳上の兄が自閉症だったことで、福祉は身近にあるものだった。
あるとき母と訪れた岩手県の社会福祉法人が運営する「るんびにい美術館」のアート作品に心を動かされた。「福祉とアートをプロダクトに落とし込むことで、障害や福祉のイメージを変えることができれば」とムクを立ち上げた。
福祉施設の製品というと、安い価格設定をし、チャリティーで購入してもらうことが多いが、ムクではアーティストへの敬意や作品への称賛の思いを形にするために当初から「最高品質の物作り」を目指した。最初に商品化したシルクのネクタイは、老舗ネクタイメーカーの銀座田屋がOEM(相手先ブランドによる生産)で製品化し、2万円前後の価格でクラウドファンディングで販売した。
■吉本興業と新プロジェクト
ヘラルボニーは今年、吉本興業ホールディングスと共同で、知的障害のあるアーティストが描いた肖像画をアパレル製品化した新ブランド「ダレ?」を発売した。吉本興業の芸人6人をモデルに5人のアーティストが描いた肖像画ををプリントしたウェアやバッグを販売している。
BtoB(企業間取引)では工事現場の仮囲いをアートにする「全日本仮囲いアートプロジェクト」やライセンス事業などを行っている。
ムクのプロジェクトを初めて2年半、アーティストとのネットワークも広がり、現在では全国15の社会福祉法人と契約している。
ヘラルボニーは、2人の兄が7歳のときに自由帳に記載していた〝謎〟の言葉が由来。「一見、意味がないと思われる思いを企画して、世の中に価値として創出したい」という意味を込めているという。