「グッチ・イン・キョウト」ルポ 赤く染まった清水寺 竹をテーマに再生した京町家 悠久の時と未来への夢が交錯する

2021/07/19 15:40 更新


 グッチは7月18~19日、ブランド創設100周年を祝して、京都でスペシャルプロジェクト「グッチ・イン・キョウト」を行った。ブランド発祥の地、伊フィレンツェの姉妹都市で、二つの寺院と町家を舞台に、伝統と創造をたたえるエキシビションが開かれ、プレスや顧客、インフルエンサーらが招かれた。

 エキシビションは3カ所に設置され、自由にプランして回遊する一泊二日のプレビューツアーとなった。コロナ下のおり、感染予防の観点から招待客が一度に集まらないように考えられた。私は初日のオープンから前のめり気味にツアーを開始した。

(青木規子)

■再生する悠久の美、グッチ・バンブーハウス

 最初に訪れたのは、京都の町家を再生させた「グッチ・バンブーハウス」。1920年代に建てられた旧川崎家住宅は、有形文化財ではあるものの庭も屋内もくたびれて、現在拝観は休止していた。それをグッチが一から手を入れて美しく蘇らせ、シグネチャーバッグのバンブーバッグを展示した。

グッチ・バンブーハウスの庭には竹が植えられた

 玄関を入ってまず迎えてくれたのは、フランクロイド・ライトの建築を思わせる応接室。当時では珍しいモダンな空間だ。そこに、京都や竹、茶道などをテーマにグッチがキュレーションした本が300冊が並べられた。本を読みながら、中庭の縁側でゆっくりと過ごしてもらいたいというブランドの考えが形になった。本は7月22日から8月15日の一般公開後、京都工芸繊維大学に寄贈するという。

バンブーハウスの玄関までのアプローチにも竹

 同町家には大きな中庭が二つ、配されている。こちらも草が生い茂って荒れ果てていたが、きれいに再生させた。目を引くのは、空に向かって伸びる竹の植栽。風が抜ける中庭で、なんとも爽やかな存在感を放っている。足元に目をやると、土が盛り上がり竹の根が見え隠れしている。それは、バンブーバッグに使われる竹のハンドル部分。さりげない形で、バンブーバッグの要素がちりばめられた。

 奥の部屋では、最新コレクション「グッチアリア」の制作風景が上映された。「バレンシアガ」のロゴが入るジャケットやバッグなど、新作で「ハッキングした」アイテムについて、ミケーレは、「(バレンシアガのディレクターの)デムナ・ヴァザリアに、グッチのバッグではなく他のブランドのバッグをショーに登場させるのはどう?と聞いてみたんです。その時、会社は私をクビにするだろうと思ったけど、私たちはハッキングすることを決めました」という。

 また、自身の物作りについて語っている内容も印象的だ。「(私は)実際には、純粋であったことはありません。私が言いたいのは、ファッションの価値を純粋さではかる人がいるけれども、ファッションの本質は純粋さではないということ。最初に誰がやったか、誰がいったかにこだわったところで誰もが何でもコピーできる今という時代に、そんな執着を持つのは意味のないことです」と強く語った。

バンブーハウスでは、最新コレクションを作るミケーレの姿が上映された

■静謐の空間とファンタジー 仁和寺

 続いて訪れたのは、世界遺産の仁和寺。仁和寺宸殿(にんなじ、しんでん)に、グッチのハイジュエリーの世界が広がった。静謐な和の空間、美しい襖絵、大きな鳥かご風のオブジェ、緑の葉と苔がびっしりと包み込む棚。そこにファンタジックな星や水をモチーフにしたハイジュエリーが並ぶ。通常はパリのヴァンドーム広場にあるハイジュエリー&ファインウォッチの店のみで見ることができる商品だ。最新コレクション「グッチアリア」の中で、モデルを妖精のように彩ったジュエリーが、和の空間のなかで、ミケーレならではの折衷主義を描いた。ハイジュエリーの名前は「ホルトゥス・デリキアルム」。ラテン語で歓喜の庭を意味する。

 梅雨明けしたばかりの京都の暑い空気のなか、展示を拝見していると、スコールのような雨がざーと降り始めた。窓を開け放つ寺の中を、雨に洗われた空気が心地よく流れた。

仁和寺に並んだファンタジックなハイジュエリー

■赤く照らされた清水の舞台

 20時。夜になった清水寺は、赤いライトであやしく照らされた。今回のイベントの象徴するインスタレーションが清水寺で開かれた。最新コレクションのグッチアリアを展示する企画。ひなびた古の寺を、色柄と光で包み込まれたコレクション。その対比を、寺全体で表現した。通常、仏事が行われるお堂のなかに、鮮やかな服が並ぶ様子は、禁を犯す後ろめたさと、それゆえの色気を称えている。京都の町をのぞむ小さな舞台には供物のような心臓のオブジェ、空間と空間をつなぐ通路では新作がネオンライトで照らされた。

 2時間限定のインスタレーションの間には、ご奉納の舞も随所で開催された。リモート取材が多い昨今、久々のプレゼンテーションに招待客も沸いた。

清水寺が赤く照らされた
ネオンカラーで照らされた新作「グッチアリア」
お堂にも新作が並んだ


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